諸刃の信頼
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である為に。
「分かっております。あなたがそういう方である事は。だからこそ私も、皆も大好きなんですから」
にこやかに笑みを浮かべて牡丹は答えた。ふっと息を漏らした白蓮はその頭を撫でる。
「いつもすまないな。勝機はまだまだある。それまでは耐えよう」
はい、と元気よく返事をした牡丹に頷き、彼女達は兵の撤退の指揮に動き始めた。
†
籠城戦を始めて五日目の早朝、眠れなかった私は城壁の上でまだ暗い空を眺めていた。
籠城での戦はやはり慣れないモノだ。地を蹴る馬を駆り、敵を翻弄してこその私達だろう。
敵からの攻撃は意外な事に少し緩やかだった。予測では、私達を逃がさない為にある程度余裕を残す為。
しかし皆もよく戦ってくれている。
圧倒的な兵数を聞いた時、私の心は挫けかけた。それに未だに烏丸の現状も入らないし兵の補充もままならない。
隣にいる牡丹、そして星の二人が心を奮わせてくれたから、兵の全ての命の重みを感じていられるから自分を保っていられる。
ここまででずっと一つだけ心にしこりがあった。未だに牡丹のあの目が、あの表情が気になる。
何故、普段であれば私に対してここまで食い下がることなどしないあいつが……これほど必死になって訴えかけてくるのか。
私の為を想ってずっと尽くしてくれたのは、自分の一番の臣下は間違いなくあいつだ。
平等に接する事が王の務め。だから口には出さないが、それでも私は心底からあいつの事をそういう存在だと感じている。
思考に潜るうちに渦巻く不安が形を成して来る。
疑うな、と強く念じて追い払っても現れるそれは、自身の心を蝕んでいた。
「人を信じるという事は……難しいな」
今は遠き徐州の地にいる一人の友を想う。
誰よりも人の事を信じている桃香の事を、私は心の底から羨ましいと感じていた。そんな彼女だからこそ、あれだけ才豊かな者達から好かれるのだろう。そんな彼女への嫉妬に心を焦がした事もあった。
次に一人の男を思い出す。
あいつがここに居てくれたら、私の事も支えてくれたのかな。こんな時代じゃなかったら、皆でバカをしていられたんだろう。欲深いモノがいなくて、皆が仲良く出来たのなら、こんな世界にはならなかったのに。
平穏な日々が欲しい、そう心の底からの願いが湧いてきた。
「おや、こんな時間にこんな場所で、どこの誰が黄昏ているのかと思えば……白蓮殿でしたか」
「星……か」
振り向くと星が佇んでいた。ゆっくりとこちらに向かい歩いて来て、目の前で立ち止まって私を見やる。
「あなたが思い悩むのはよくある事ですが、今日は一段と深いようで」
「ふふ、さすがに分かるか。話を聞いてくれるか? 朝になれば戦が始まるから少しだけ」
星はコクリと頷いて隣に並ぶ。私の顔を見ないよ
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