ハングリー=アイズ
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の部屋に向かう。ここも女に教えてもらった。
部屋に来るとドアを開けて飛び込んだ。目に西の日差しが入る。夕方なのをその時に思い出した。
「貴方は」
部屋の中に立っていた白衣の眼鏡の中年の男が俺に声をかけてきた。どうやら医者らしい。
「俺ですか」
「はい」
俺の問いに答えてくれた。
「ご家族ですか」
「え、いや」
俺はそう問われて落ち着きを少し取り戻した。そして一息ついてから答えた。
「友達です。知り合いでして」
「そうですか」
医者はそれを聞いて沈んだ顔になった。
「よく来られました」
「ええ」
「本当に」
「本当にって」
話をしていて不安が増していく。医者の態度がおかしい。おかしいとしか思えない。
「何でそう勿体ぶるんですか。どうしたんですか」
「お話は聞いていますね」
「ええ」
女からの話だ。アパートの前に轢き逃げにあったって話だ。よくある話だが聞きたくもないし信じたくもねえ話だ。少なくともあいつに関してはそうだ。
「それではおわかりですね」
「何が言いたいんですか」
俺はそう言って医者を睨みつけた。
「俺にもわかり易いように言って欲しいんですけれど」
自慢じゃないが俺は頭が悪い。学校じゃいつもビリの方だった。ハイスクールまで何とか卒業できたがそれも学校からのお情みたいなものだった。馬鹿なのはわかっている。
「では言います」
医者は観念したのかそう答えた。
「残念ですが」
「・・・・・・・・・」
俺はそれを聞いて沈黙した。わかっていたがいざ聞いてみると黙るしかなかった。
そこではじめて部屋を見る。医者の前にベッドが一つあった。そこにあいつがいた。
「貴方はこの方のお友達でしたね」
「ええ」
「お名前は」
「はい」
俺はそこで自分の名前を言った。医者はそれを聞いて表情を消したまま頷いた。
「そうですか、貴方が」
「俺のことで何かあったんですか!?」
「はい」
医者はここで一枚の紙を俺に取り出した。そこには紅のルージュでこう書かれていた。
『サヨナラ』
と。それだけだった。
「・・・・・・・・・」
また黙ってしまった。何て言えばいいかわからない。俺はそのルージュの字を見て呆然と立ちすくんでしまった。
「最後まで貴方のことを言っておられましたよ」
「そしてこの字ですか」
「はい。最後にこれを見せて欲しいと。それを書いて亡くなられました」
「そうですか」
涙は出ない。だが言葉も出なかった。言葉を忘れちまったんじゃないかと自分でも思う程だった。それ程この時の俺は呆然としちまっていた。
「これからどうしますか?」
「これからで
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