第一章
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第一章
渚のダンスホール
夜の砂浜。波音が奇麗に聴こえる。
星がその紫の帳に赤い光や白い光、青い光を湛えている。その星と波音に囲まれて僕達はそこにいた。
「この曲が終わったらね」
その中で僕達はそこに持って来たラジカセの音楽を聴いていた。二人でいつも聴いていた曲だ。もう何年も前の曲だけれど二人でいつも聴いていた。
「そうだね」
僕はその言葉に応えた。応えながら砂浜の向こうの海を眺めていた。真っ暗で何も見えはしない。空は濃い紫なのに海は真っ暗だった。昼はあんなに青いのに今はもう真っ暗だった。時折その中に白い波が見えるような気がするだけであった。
「お別れね、私達」
「うん」
そういう約束だった。彼女に僕とは別に好きな人ができた。だから別れることになった。それだけのことだった。
「ずっと二人でこの砂浜歩いてたよね」
「そうだったね」
また彼女の言葉に応えた。
「何年もね」
「最初に出会った時覚えてるかしら」
彼女はふとこう言ってきた。
「最初って?」
「あの時は中学生、いや小学生だったかしら」
「奨学生だった筈だよ」
「そうだったわね、私がここに転校してきて」
「うん」
それから僕達の付き合いがはじまってそれから数年。中学になっても高校になっても続いた。ずっと一緒だった。それはこれからもずっと続くと思っていた。けれど。
「それももう終わりなのね」
彼女はそう言うと俯いてしまった。
「・・・・・・御免なさい」
「泣いてるの?」
「・・・・・・・・・」
波の音と暗闇でそれははっきりわからなかった。だが泣いている感じはわかった。こちらに漂ってきた。
「泣くなんかないのに」
「けど」
「ふられたのは僕なんだよ」
「御免なさい」
また謝ってきた。どうにもいたたまれなくなってきた。
「謝ることなんかないさ」
「・・・・・・・・・」
「よくあることじゃないか。誰かを好きになるって」
僕は彼女に言った。
「それだけのことなのに。どうして泣くことがあるのさ」
「それでいいの?」
「いいって本当にそれだけじゃないか」
僕だって悲しくないって言えば嘘になる。けれど彼女が好きだから。彼女もまだ僕のことも好きだってわかってるから。それを壊したくなかった。彼女を傷つけたくなかった。それだけだった。
「そうじゃないかな、それだけで」
「それだけ」
「うん、それだけさ」
僕はあえて明るい声でこう言ってあげた。自分のことは隠して。
「だからね」
「それじゃあ」
「うん、明るく過ごそうよ」
僕は彼女に顔を向けて言った。
「最後まで。二人で」
「・・・・・・ええ」
この言葉に頷いてくれた。僕達はそっとお互いの側に寄った。
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