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誰が為に球は飛ぶ
焦がれる夏
参拾壱 心か、理屈か
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、是礼ベンチに居る冬月だった。




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「真矢君、高雄は戻ってこれると思うか?」

腕組みしたまま微動だにせず、冬月は真矢に尋ねた。真矢も愕然として、ペンが小刻みに震えていた。

「……何とも言えません…ですが…厳しいかと…」

冬月は、聞くまでもなく分かっていた。
あの剣崎のジャストミートの打球をモロに食らって、無事でいるはずがない事を。
まだ望みがあるのであれば、部長と一緒に医務室に行って様子を見ていただろう。
無理である。
少なくとも、マトモな球を投げられる状態にはない。

(準備させていた控え投手は大坪と加藤だ。とても試合の最終盤を任せられる投手ではない。投手はもう一人東野が居るが肘を痛めている。誰を代わりに投げさせるというのだ?なぜこの試合、神は我々に味方してくれないのだ?)

ブルペンで準備を終え、緊急事態の発生に伴い慌ててベンチまで戻ってきた大坪と加藤を見比べ、冬月は呻吟した。
エースがマウンドを降りる時は、チームが負ける時。このままただ控え投手をマウンドに送って良いのだろうか?まだできる事は無いのだろうか?

「…………」

長い沈黙の後、冬月は答えを出した。

「伊吹!」

ショートのポジションでファーストの分田とキャッチボールをしている琢磨を冬月は呼んだ。
琢磨はベンチの方を振り向く。

「肩を作れ!貴様がピッチャーだ!」

この指示には、琢磨だけではなく全員が驚いた。琢磨の投手経験は、たまにバッピを引き受ける程度。とてもこの場面で投げさせるべき人間には思えない。琢磨はびっくりした顔で冬月を見返すが、冬月はその視線を合わせようとはしなかった。観念したように琢磨は控え選手から投手用のグラブを受け取り、マウンドで投球練習を始める。





「…何で?…俺たち投手ですよ…?」

肩を震わせているのは、控え投手として準備していた大坪と加藤だった。加藤は信じられないといった顔で言葉を漏らす。

「高雄さんがトラブったこの場面で…どうして琢磨さんが投げるんですか…おかしいですよ…」

加藤とは対照に、大坪は黙っている。
黙って唇を噛み締めている。

「これじゃ俺たち、何の為に居るかわかんないですよ!」
「やめろ加藤!」

大坪は加藤の襟首を掴んだ。
加藤はその形相に口を噤む。

「琢磨より俺たちは、使えないんだ。ほとんど投手の練習してない琢磨の方が、俺たちより上なんだ。そう監督は判断したんだよ…」

加藤はうなだれる。
大坪はその手を放した。

「是礼はここで勝たないと意味が無いんだ。是礼は勝つためならどんな策でも使わないといけないんだ。ここで俺たちが投げて、あぁ打たれた仕方がない、運が悪
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