焦がれる夏
参拾壱 心か、理屈か
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東雲は3球勝負を挑んできた真司の速球にフルスイングで立ち向かう。しかし、東雲が見てきたどの速球よりも、それは速く。まるで光線となって鋭くストライクゾーンに切れ込んだ。
「ストライクアウトォ!」
東雲のバットの上をボールは通過し、薫のミットが三たび、高い音を立てた。
球速は147キロにまで上がっていた。
呆れたような顔をしてベンチに戻る東雲。
是礼の勝ち越しを期待していた一般観客は、息を吹き返した真司の投球に拍手喝采する。
「こんな事が……」
是礼ベンチでは、予想外の出来事に冬月が言葉を失う。彼の長い監督生活の中でも、試合途中にここまで劇的に投手が"変身"したような例はない。調子が上がるとか、そんなレベルではない。
もはや別人だ。
続いて打席に入るのは4番の分田。
もちろんパワーには自信がある。
真司の速球に対して、フルスイングで真っ向から勝負を挑む。
カンーー
打球は力なく上がる。
セカンドの健介が落下点に入り、難なく捕球して二死となった。
(ど真ん中だったのに、俺が力負けした?)
痺れる右手を押さえながら、分田は顔を歪めた。絶好球だったのに、球自体の威力に完全に抑え込まれた。
パシィーーーン!!
「ストライクアウトォ!」
5番の最上にも速球で真っ向勝負。
最上はバットに当てる事もできず、最後はインコースに腰を引いて見逃し三振。
天を仰ぎ、ため息をつく。
「よしッッ!!」
短く声を上げて、真司は自軍ベンチに帰っていく。ネルフのベンチも、みんなポカンとして喜びの反応が鈍い。頬をつねって夢ではないかと確かめる輩も居た。
(真司君……君は…君は何て人なんだ!)
ミットをはめた左手に強烈な痺れを感じながら、薫は真司の投球に感じ入っていた。
リードなんて要らない、その投球。
捕手の仕事は受けるだけ。
なのに、何故か最高に気持ち良かった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「何だありゃぁ…」
「ずっと出し惜しみして、ここまで来やがったのか……?」
絶好の勝ち越しのチャンスを真っ直ぐ一本で封じられた是礼ベンチのダメージは大きかった。
皆それぞれに驚きを口にし、勢いをせき止められて不穏な空気が広がる。
「お前ら何をビビってるんだ。碇は追い込まれたからこそ、あの真っ直ぐを見せてきたんだ。後はあの真っ直ぐさえ打てば勝ちなんだよ。恐れる事はねぇよ。」
その不穏な空気を払拭すべく声をかけたのは同点ツーランを放った主将の琢磨。
「そうだそうだ、まだ同点だろ?俺がこれから点をやらなけりゃ負けねぇだろ。あと一点取ってくれりゃいい」
高雄が琢磨に同意して、その太い右腕をぶす。
これには、
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