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駄目親父としっかり娘の珍道中
第48話 男の子は母親好き、女の子は父親好き
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歩き疲れたなのはは近くにあったベンチに座り込み、深く息を吸い込んで静かに吐いた。吸った空気が体中を駆け巡り、吐いたと同時に体中の空気が一斉に吐き出される感覚を新鮮に感じた。
 これからどうしようか? 途方もない事を空を見上げながら考える。だが、幾ら考えても良い案など浮かぶ筈がなく、結局どの考えも最後はドツボに嵌ってしまうのがオチばかりだった。
 それがまたなのはの心を重くしていく。心が重くなると自然と体も重くなっていく。こうなってしまっては楽しい考えなど浮かぶ筈がない。やがて頭の中が真っ黒に塗り潰されてしまった。ただただ空しく時間だけが過ぎ去っていく。子供にとっては残酷な時間だった。特に遊びたい盛りなのはにとっては拷問にも近い。何とかこの拷問から抜け出したいのだが、抜け出し方が思い浮かばず、まるで底なし沼に嵌りもがき苦しみながら徐々に沈んでいく絶望感を味わう羽目になってしまった。
 こんな苦しみを味わう位なら、いっその事ひと思いに謝った方がずっと気が楽になれる。その際に銀時に大笑いされるだろうがこのままずっとこうしているよりは遥かにマシだ。それに大笑いされたのなら翌朝倍にしてそれを返してやれば良いだけのこと。
 何だ、案外すぐ答えが出てきたんだ。
 今まで必死に悩んでいた自分がまるで馬鹿らしく思えるかの如く、今のなのはは晴れやかな気分になれた。そうと決まれば早速家に戻るまでの事だ。今頃あの銀時の事だから二階に戻ってのんびりしているかジャンプを読み腐っているに違いない。
 それしかする事がない人間なのだから仕方がない。
 とにかく、今はすぐにでも帰宅して先の行いを謝罪し、気持ちをスッキリさせたい。こんな良い天気に気持ちが沈みきっていては勿体無い。
 そう思いベンチから立ち上がったなのはの目の前をふと、誰かが横切った。一瞬だったので判別はつかなかったが、何所となく、本当に何所となくだが、その横切った人間が銀時に見えた。
「お父さん!」
 回りのことなどお構いなしになのはは叫んだ。目の前には大勢の人盛りが出来ており、その中に紛れ込んでしまい判別が出来ない。
 ならばと人ごみを掻き分けてなのははその先に居るであろう銀時を目指した。
 幾人かを掻き分けて行く内に、先ほどの人と思わしき左手が見えた。それを見るなり、なのははその手が誰なのかを確認せずに両手でその手を握った。この手は父の手で間違いない。きっとそうだ。
 そう思い強くその手を握った。
「ん?―――」
 手を握られた人が振り返る。なのははそれに釣られて握った手の持ち主を見上げる。其処には銀髪で死んだ目をした銀時が居る。
 そう思っていたなのはは自分の描いていた光景をガラスが割れるように砕けていくのを感じた。
 目の前に居た、なのはが手を握ったのは父である坂田銀時ではなかった。

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