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フェアリーテイルの終わり方
六幕 張子のトリコロジー
4幕
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 女はルルを連れてドーム状の家の一つに入った。

 エルが追って中に飛び込む。フェイは、頭では失礼だとは思いつつも、エルを見失うほうが怖かったので、エルに続いて家の中に入った。

「なに勝手に入ってきてるの!」
「だってエル、その子のホゴシャだもん。ねー」
「……う、うん」
「――まあ、いいわ。お客さんなんて滅多に来ないし。好きにしなさい」

 女は小さな鍋から雑炊らしきものを深皿によそってルルの前に置いた。ルルはご機嫌な鳴き声を上げてそれを食べ始めた。

「いいなー、ルル」
「何? あなたもお腹空いてるの?」
「そ、そんなこと……! なくはない、けど」
「空いてる。お姉ちゃん、お昼になっても何も食べてなかったから」
「もー! フェイってばっ。オンナノコは、こういう時はハジライを持たなきゃいけないんだよ」
「ゴメンナサイ」

 フェイはしゅんとした。エルが言いにくそうだから代わりに言ってあげようとしたのが裏目に出た。

「要するに二人ともなのね。座ってなさい。ついでだから、あなたたちにも食べさせてあげる」
「わたしも食べていいの?」
「当たり前でしょ。その子にだけ出してあなたに出さないんじゃ不公平じゃない」
「あ、ありがと……あっ。エル、『あなた』じゃないよ。エル・メル・マータ。この子はフェイで、そっちのはルル。――ヒトに名前をたずねる時は自分から名乗るんでしょ?」
「はあ、しょうがないわねえ。私はミラ。ミラ=マクスウェ……」

 そこでミラははっとしたように口を押さえた。

「何でもないわ。忘れて。――ミラよ。元マクスウェルの、ただの、ミラ」
「まくすうぇる?」
「地水火風の精霊を統べる大精霊――といっても昔の話よ」

 ミラは天幕の奥へ、おそらく調理道具と食材を取りに引っ込んだ。

「楽しみだねー、ミラの料理! どんなんだろーねー」
「ナァ〜♪」

 フェイは曖昧な相槌を打つに留めた。

 すると不意打ちに、ボーっとしていたフェイの視界が、姉の顔でいっぱいになった。

「フェイ、どうかしたの。辛いコトがあるなら、お姉ちゃんに言ってごらん」

 エルはやんわりと笑んだ。翠の宝石のような目を優しく細め、口は大人びた弧を描く。子供の頃と変わらず頼もしい姉。

「お姉ちゃん、クロノスが言ったコト、覚えてる?」
「うーんと……カゴの中のウサギってやつ?」
「うん。本当にそうだなって。わたし、〈温室〉の外は知らないし、キョーミもなかった。ううん。今でもキョーミはないの。でもお姉ちゃんたちと会えてからのコトは、ジブンゴトでもタニンゴトでもなくって。知らなくていいって思ってたコトを知らないフェイは、ワルイ子なんじゃないかな。〈妖精〉ってちやほやされて、精霊と会話できても、本当の
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