六十六 暗雲
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が嬉々として撫でると、猫の双眸が微かに細まった。そしてナルの手をすり抜け、転がったままの水風船へ駆けてゆく。
「お、おい!それってば、お前のおもちゃじゃねえってばよ」
器用に前足を交互に動かして、水風船を転がす猫。慌てて声を掛けたナルは、猫の前足に合わせて回転する水風船を目にして息を呑んだ。
前足で何度も弾く度に水風船の水が色んな方向に揺れている。
「こ、コレだ!!」
ナルの大声に驚いたのか、それとも爪が引っ掛かったのか。バシャッと音を立てて水風船が割れる。風船内の水が若干掛かり、頭を振る猫にナルは笑顔を向けた。
「ありがとだってば!お前のおかげだってばよ!!」
濡れたところを優しくタオルで拭いてやる。満面の笑みでお礼を言うナルを猫は不思議そうに見上げた。そのまま入って来た時同様、扉の隙間を通って部屋を出て行く。
「ありがとうだってばよぉ!!」
真夜中にも拘らず、通路を走る猫の後ろ姿に感謝の言葉を叫ぶ。直後、隣の部屋から「うるさいぞ!」と怒鳴られ、ナルは慌てて部屋に戻った。
その扉を猫がじっと見つめている事に気づかずに。
通路を通り、窓枠に飛び乗る。振り返ると、通路の向こう側から全く同じ模様の猫が歩いて来るのが見えた。
目を光らせ、窓から外に躍り出た猫はそのまま軽やかに屋根へ登る。天辺まで駆け登り、屋根板の上へ足を乗せた途端、白煙が立ち上った。
欠けた月の下、波風ナルが眠る部屋の灯りをじっと見下ろす。
「護衛じゃない。ただの監視だ」
ぽつりと呟かれた声。小さな呟きは風に攫われ、夜の闇へ溶けてゆく。
ドウッと一瞬、激しい風が吹いた。苛烈な風と共に、荒々しく揺れる木々。地鳴りの如き風音に調和したのか、ざわめく闇。
直後、静まり返る。
訪れた静寂の中、彼はどこか自分自身に言い聞かすように再度呟いた。
「ただの監視なんだ……」
深閑たる暗夜。
刹那のさざめきは、まるでこれから起こる嵐の前触れのようだった。
「何が目的だ?」
凄む再不斬に、水月は殊更ゆっくりと振り向いた。心なしか引き攣った顔には汗が伝っている。
重吾の家で戸口に立ち竦む水月に、周りの怪訝な視線が一身に注ぐ。唯一ナルトだけが双眸を閉ざし、鷹揚に黙していた。
「やだなぁ〜…再不斬先輩ったら怖い顔して」
「ふざけるな。一度ならず二度も邪魔しやがって…」
ガッと突き立てる。首切り包丁の刃先が水月の頬を掠り、背後の扉に突き刺さる。
つうっと滴る血に青褪める水月を余所に、重吾が思わず「おいっ」と声を上げた。
「俺の家を壊さないでくれ!」
「それに一度目はその人の機転で助かったようなものですよ」
「う、う
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