六十六 暗雲
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そ、追い求めざるを得ない、切なる願いを。
その望みは太陽に焦れ、海に堕ちゆくイカロスの翼を彷彿させる。
先ほど身を焦がす羽目になっても炎に寄らずにはいられなかった蛾と同様に。
「でも…そうね。仮にあの子を器として手に入れられるなら…この状況を甘んじて受け入れていたでしょうね」
独り言のように呟いて、それきり大蛇丸は口を閉ざした。カブトもまた、直立不動のまま大蛇丸の言葉を待っていた。
一時の沈黙。
瓶詰めの蛇の傍らで、蝋燭の蝋がぼとりと融けゆく。ちょろちょろと蛇の舌先のように裂けた炎が宙を舐めた。
「出掛けるわよ、カブト」
寸前までの憂苦が嘘だったように、冷厳な態度で大蛇丸は腰を上げた。突然の宣言に目を瞬かせたカブトだが、彼の「古い馴染みに会いに行くわ」の一言ですぐさま察する。
「綱手様の事なら私も少々存じていますよ。一応、医療班のはしくれでしたからね」
古い馴染み――大蛇丸同様三忍の一人である『綱手』。瞬時にその人だと正しく推測したカブトに、「相変わらず、察しが良いわね」と大蛇丸は苦笑を漏らした。
「しかしながらあの方は苦い程度じゃ済まされませんよ」
「良薬は口に苦し、と言うでしょう?」
小隊は基本四人一組とされる。その中に、医療忍者を一人加える陣立ては、現在では常識だ。今では誰もが知る周知の事実だが、当時は大変画期的だった。
いくら戦闘に長けていても応急医療技術を持たぬ小隊が戦場でどうなるかは火を見るよりも明らか。
そのスタイルを最初に考案した人物が医療スペシャリストとしてその名を馳せた、三忍の一人『綱手』。
彼女に両腕の治療を依頼するのだろうと、大蛇丸の外出理由に納得していたカブトはふと思い当った。思案顔で呟く。
「世界を渡り歩く医者も腕が立つと聞き及んでいますが。……確か名は―――」
「『神農』よ。でも最近、彼の消息がぱったりと途絶えてね。足取りを掴むよう手配しても、芳しい情報は入って来ないわ。生死が解らぬ者より綱手を捜すほうが有意義だと思わない?」
まさかナルトが既に神農と接触しているとは夢にも思わず、大蛇丸は肩を竦めた。
今や【肉体活性の術】の反動で容姿も老人と化している神農。世界中に部下を派遣したとしても、彼を神農だと判別するのは難しい。更には悪意すらナルトにより奪われている為、善人となっているのだ。仮に神農だと気づいても、彼の助力を得る事は叶わないだろう。
以上から、ある筋でも『伝説のカモ』として有名な綱手を捜索する意向に大蛇丸が至ったのは当然の結果と言える。
「…ナルトくんも医療忍術に秀でているのでは?」
不意に告げられたカブトの問いを耳にするや否や、大蛇丸は渋面を作った。ゆるゆると頭を振る。
「彼には借りを作り過ぎたわ…―――それは最後の
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