第百四十九話 森の奮戦その二
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「そうされる」
「では」
「御主達は皆気合を入れて戦え」
そして何があっても城を守れというのだ。
「生きてな」
「生きて、ですか」
「死ぬことなく」
「死ぬ気で戦い生きるのじゃ」
森は少し聞いただけでは矛盾する言葉をあえて言ってみせた、しかしこのことは彼の中では矛盾していない。
それでだ、今言うのだった。
「必死にじゃ」
「必死にですか」
「門徒共と」
「戦え」
こう言ってそしてだった、彼等はそれぞれの持ち場で門徒達を待ち受けた。その三万の大軍が忽ちのうちに城を囲んだ。
そのうえで四方八方から攻めてくる、鉄砲に弓矢が来る。弓矢の中には火矢まである。
その火矢の火を消しながらだ、足軽達は城の中から自分達も鉄砲や弓矢で返しながらそのうえで言うのだった。
「門徒達にしては弓矢が多くないか?」
「うむ、鉄砲も尋常な数ではないぞ」
「これは強いぞ」
「一揆とは思えぬ」
「百姓達なのか、まことに」
「何者なのじゃ」
「確かにのう」
森も自ら戦っている、そのうえで言うのだった。
「百姓達にしてはな」
「はい、鉄砲が多いですぞ」
「それに弓矢も」
「しかも槍や刀も質がいいです」
「鍬や竹槍は少のうございます」
百姓一揆ならば刀や槍よりそうしたもので戦うことが普通だ、しかし今城を攻めてきている門徒達はというと。
そうしたものは少なく鉄砲や弓矢が多い、それにだった。
槍や刀も多くそれぞれ質がいい、これではだった。
「わしもな」
「ですな、ただの百姓とは思えませぬ」
「到底」
足軽達も森に怪訝な顔で言う。
「国人達の軍勢が混ざっているのでしょうか」
「この国の」
国人の侍達ならば武具がよくとも納得がいく、百姓ではなく侍だからだ。
「それでこれだけの武具でしょうか」
「いや、それはない」
森はそれはないとした、何故かというと。
「この近江だけでなく他の国の国人達もじゃ」
「織田家の国人ならばですか」
「織田家に忠誠を誓っていますか」
「うむ、だからじゃ」
それ故にだというのだ。
「国人達が入っていることは殆どない」
「ではこの者達は殆どですか」
「やはり」
「そうじゃ」
まさにだ、その通りだというのだ。
「百姓じゃ、その筈じゃ」
「では今いるのは」
「まごう方なき」
「そうじゃ」
その通りだというのだ。
「ここはな」
「では門徒共は」
「紛れもない」
百姓達だというのである。
「この近江のな」
「そうですか、では」
「百姓達であろうとこれだけの鉄砲や弓矢をですか」
「備えていますか」
「信じられぬ」
森も言うのだった、こう。
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