第一物語・後半-日来独立編-
第六十三章 覚醒せし宿り主《3》
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時かはその罪が軽くなるからさ、これからも頑張れよ』
兄として、今出来ることは小さなものだ。それでも奏鳴ならば平気だと竜栄は思った。
過信ではない。分かるのだ。妹が変わったことを。
よかったと、ほっと一息。
『よーし、そんじゃあ行ってきますか』
呑気に腕を伸ばし、背筋を伸ばす。そんな彼もまた消えいく定めなのだ。
足先から徐々に消え出していき、背景が見え出してくる。
透け、それに驚いている竜栄を見て。
「お兄様」
呼んだ。
二回目のその言葉。
不思議そうな目で、なんだ? と言いたげに首を傾ける。
竜栄は奏鳴よりも高く、身長差があることから奏鳴は見上げる形で言う。
「私の兄でいてくれて、ありがとう」
初めてそのような言葉を言われたような気がした竜栄は、照れ臭そうに笑う。
消える前に一言。
『俺の妹でありがとな。後、別に消えたからって俺が奏鳴の兄じゃなくなるわけじゃないんだかんな。そこんとこ間違えんなよ』
「そうだったな。行ってらっしゃい、お兄様」
『おう、じゃあな。まだ父さんと母さんいるからな、大変だろうけど頑張れよ。ずっと応援してっからさー』
一笑いした後。形を無くして消えた。
灯る火がすっと消えるような感じで、別れに猶予を与えてはくれない。
あまりにも短い再会。
すぐに別れは来て、長々と触れ合う時間すらも与えてはくれなかった。
手を伸ばせば届く距離にいるのに、また遠くへと行ってしまう。手の届かない、遠く、遠い場所へ。
辛かった。
奥歯を噛み締め、噛む力が強い程に奏鳴の自分への怒りは強い。
自身が生んだ結末。親に見せる顔が無い。
それでも奏鳴の両親は我が子を見詰めていた。互いを愛し合い、産まれた子の一人を。
今掛けてやれる言葉はなんなのか。親として、一人の人として考えた。
迷い、悩んだ末に動いたのは母親だ。
母性に訴える何かが足を動かし、子の元へと近付けさせる。
その姿を見た奏鳴は息を飲んだ後に、
「母様、私は……!」
『もういいのよ、奏鳴』
紡ぐ言葉を遮り、我が子を優しく抱き締めた。
何時ぶりだろうか。こうして抱いてもらったのは。
母の身体に埋まる奏鳴の涙腺が緩んだ。
温かく、優しい母の温もり。
酷いことをしてしまった。とても酷いことを。
後悔の念がより一層強くなると同じく、強くあるために閉ざしていた甘えが解き放された。
子どもが本来持っている、親に対する甘え。だが奏鳴は家族を殺めてしまったあの日に全てを閉ざし、新たな自分へと変えてしまった。
その際に閉ざしてしまった甘え。
母親はただ一人置いてきてしまった一人の娘を、今まで以上の愛情をもって抱く。
奏鳴が泣き、赤子のよう
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