暁 〜小説投稿サイト〜
誰が為に球は飛ぶ
焦がれる夏
参拾 奇跡の価値は
[5/6]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
のはお前だ、何でも投げてみろ」

多摩は笑顔で、真司の背中を押した。
敬太も、青葉も、薫も頷いた。

「もう破れかぶれだ。何でもやって、勝ちに行くぞ。何せ俺達、負けて元々だ!」
「「オウ!」」

多摩が円陣を締め、それぞれがポジションに散っていった。



ーーーーーーーーーーーーーーー


「おう、お前ら、何を相談してきたんじゃ?」

捕手のポジションに帰ってきた薫に、打席で待っていた東雲が声をかけた。
薫はニッコリと微笑んでそれに応える。

「どうしたら抑えられるかを、です」
「ほうか。じゃ、遠慮は要らんの。」

東雲はニヤリ、と笑った。

「お前らこの戦力での、よう頑張ってきたわ。大したもんじゃ。」
「ありがとうございます。あと少しだけ、頑張らせて下さい。」

薫はマスクを被ってしゃがむ。
東雲は打席で構え、それぞれがポジションに就いた。



ーーーーーーーーーーーーーーー




「「「おまえのっ出番だっ!!」」」

タイムが明けると、待っていたかのように是礼応援席から「サウスポー」のイントロが流れ始める。もう一般生徒も保護者も野球部員もOBもない。全員が曲に合わせて踊り回る。

「「「今だチャンスだかっ飛ばせ(ヨッ)
是礼打線の意地を見せろよ(ワッショーイ)
燃えろ しーののーめー」」」


応援の濁流が球場を飲み込んでいく。
内野席の一般観客もサウスポーに合わせて手拍子を始め、一緒に歌い始める者も居た。



(いきなり、"普通"の真っ直ぐね…)

真司がサインに首を振って選択したのは、先ほど言っていた「変化しない」真っ直ぐ。
未知の球筋に備えて、薫は気を引き締める。
しかし、薫には、少しだけ想像がついていた。
これから真司がどんな球を投げるのか。



(甘けりゃ、遠慮はいらんけぇの。ワシが決めちゃるわ)

東雲は初球打ちの構え。その目をギラつかせる。



真司はセットポジションに入り、一つ大きく息をついた。そして、意を決したように足を上げる。その足の上げ方は今までとは違う。
勢い良く、捻りを加えるように回しこんだ。



(あ!?)

打席の東雲はいきなり変わったフォームに面食らう。静かで精度の高い、お手本のような投球フォームだった真司が、やたらと豪快な動きをしている。


体を大きく捻った後、左腕を上に大きく掲げる。右腕は背中の側に大きくテークバックし、体に巻きつくように引き上げられる。
華奢な体を目一杯しならせるように体を反らせて、真っ向から右腕を投げ下ろした。

(来る!!)

薫は、真司の右腕から放たれた白球に対して、「ミットを上から被せた」。


パシィーーー
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ