焦がれる夏
参拾 奇跡の価値は
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のはお前だ、何でも投げてみろ」
多摩は笑顔で、真司の背中を押した。
敬太も、青葉も、薫も頷いた。
「もう破れかぶれだ。何でもやって、勝ちに行くぞ。何せ俺達、負けて元々だ!」
「「オウ!」」
多摩が円陣を締め、それぞれがポジションに散っていった。
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「おう、お前ら、何を相談してきたんじゃ?」
捕手のポジションに帰ってきた薫に、打席で待っていた東雲が声をかけた。
薫はニッコリと微笑んでそれに応える。
「どうしたら抑えられるかを、です」
「ほうか。じゃ、遠慮は要らんの。」
東雲はニヤリ、と笑った。
「お前らこの戦力での、よう頑張ってきたわ。大したもんじゃ。」
「ありがとうございます。あと少しだけ、頑張らせて下さい。」
薫はマスクを被ってしゃがむ。
東雲は打席で構え、それぞれがポジションに就いた。
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「「「おまえのっ出番だっ!!」」」
タイムが明けると、待っていたかのように是礼応援席から「サウスポー」のイントロが流れ始める。もう一般生徒も保護者も野球部員もOBもない。全員が曲に合わせて踊り回る。
「「「今だチャンスだかっ飛ばせ(ヨッ)
是礼打線の意地を見せろよ(ワッショーイ)
燃えろ しーののーめー」」」
応援の濁流が球場を飲み込んでいく。
内野席の一般観客もサウスポーに合わせて手拍子を始め、一緒に歌い始める者も居た。
(いきなり、"普通"の真っ直ぐね…)
真司がサインに首を振って選択したのは、先ほど言っていた「変化しない」真っ直ぐ。
未知の球筋に備えて、薫は気を引き締める。
しかし、薫には、少しだけ想像がついていた。
これから真司がどんな球を投げるのか。
(甘けりゃ、遠慮はいらんけぇの。ワシが決めちゃるわ)
東雲は初球打ちの構え。その目をギラつかせる。
真司はセットポジションに入り、一つ大きく息をついた。そして、意を決したように足を上げる。その足の上げ方は今までとは違う。
勢い良く、捻りを加えるように回しこんだ。
(あ!?)
打席の東雲はいきなり変わったフォームに面食らう。静かで精度の高い、お手本のような投球フォームだった真司が、やたらと豪快な動きをしている。
体を大きく捻った後、左腕を上に大きく掲げる。右腕は背中の側に大きくテークバックし、体に巻きつくように引き上げられる。
華奢な体を目一杯しならせるように体を反らせて、真っ向から右腕を投げ下ろした。
(来る!!)
薫は、真司の右腕から放たれた白球に対して、「ミットを上から被せた」。
パシィーーー
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