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誰が為に球は飛ぶ
焦がれる夏
参拾 奇跡の価値は
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(ま、大事なトコじゃ、よー悩むがええよ)

東雲は鼻をフン、と鳴らした。




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「ハァ…ハァ…」

両手を膝の上に置いて、真司は俯いている。
肩で息をしていて、誰の目にも限界は明らかだったが、かといって真司以上の投手などチームに居るはずもない。とりあえず集まったは良いが、内野陣の誰もが、言える言葉が何も無かった。

「真司ィーー!」

そんな時に、声が聞こえてきた。
自軍の応援席から聞こえる。
是礼応援席がタイムの間応援を中止してくれているおかげで、たった1人の声でも聞き取る事ができた。

「諦めるなーー!まだ勝負はついとらん!最後までやってくれーー!!それが応援への恩返しだーっ!!」

スタンドの最前列で叫んだのは、髭が汚いサングラスの男、真司の義理の父親の玄道である。叫ぶやいなや、真理に「もう負け確定みたいな事言うな!」と頭をはたかれている。

「シンちゃん!あなたがやるしか無いのよ!最後まで投げて、そして敗けなさい!」

美里も大声で檄を飛ばす。

「「頑張れ頑張れネルフ!
頑張れ頑張れネルフ!」」

真理の音頭に合わせて応援席全体からもネルフ守備陣にエールが送られた。さっき玄道に「負け確定みたいな事言うな」と言っておきながら、そのエールをリードする真理の顔は既に涙でぐしゃぐしゃだった。

「……….ホンットに、みんな勝手なんだから……」

真司がゆっくりと、俯いていた顔を上げた。

「勝手に期待して、周りで勝手に必死になって……今は頑張れと口で言ってるのに、内心では絶対負けると思ってる…」

毒づくその顔は、笑っていた。
汗にまみれた顔に、屈託のない笑みが浮かんでいた。

「碇……」
「碇さん……」

その笑顔に、周りに集まった内野手一同もつられて笑う。何故か、笑えた。

真司は薫に、ボールを握って見せた。
縫い目が4つ指にかかる、至極スタンダードな握り。野球の基本のボールの握りだった。

「真っ直ぐの握り、変えるよ。サインを一つ増やそう」
「え?碇、お前の真っ直ぐは生来の癖球じゃ…」

訝しがる健介に、真司は首を横に振った。

「ううん、違うんだ。僕程度の球威じゃ綺麗な回転の真っ直ぐは意味が無いと思ってずっとツーシームで投げてきたけど、無意識に変化していたわけじゃないよ」
「じゃあ、その真っ直ぐは…」
「多分、沈まないしスライドしないんじゃないかな。2年も投げてないから、どうなるか分からないけど。」

健介はズッコけた。
甲子園のかかったこの決勝の、勝ち越しのピンチで、2年も投げていないという、何の変哲もない真っ直ぐにその命運を託そうというのだ。

「投げる
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