暁 〜小説投稿サイト〜
誰が為に球は飛ぶ
焦がれる夏
参拾 奇跡の価値は
[3/6]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
んな事は集中し感性が研ぎ澄まされた琢磨には関係なかった。


カァーーン!


お手本のような美しいスイングで捉えた打球は、糸を引くような鋭いライナーとなって一直線にライトフェンスの向こうへ。
打った瞬間、琢磨は右の拳を高々と天に突き上げた。




ーーーーーーーーーーーーーーー



大歓声が球場に溢れる。
その歓声は、ゆっくりとベースを一周する男に贈られるモノ。今、琢磨は球場の時間を独り占めしていた。


「…………」

マウンド上で真司は膝に手をついてうなだれる。
顔いっぱいに汗をかき、マウンドの上に滴り落ちていた。
この終盤に来て同点。
しかもまだ無死で、ここから是礼自慢の上位打線が続く。

「碇……」
「……」

バックを守る守備陣も黙り込んでしまう。
「ドンマイ」などと軽く言える雰囲気ではない。
ネルフナイン全員が、巨大な絶望感に支配される。

もう、どうしたら良いか分からない。
どうしたら抑えられるのか、分からない。



「「「緑溢れるあずま野に
建てし我らが学び舎よ
鍛えの青春 希望に燃えて
礼の人たる誇りに生きん
ああ 是礼 是礼
我らが母校 是礼学館」」」


得点を喜ぶ是礼応援席の校歌斉唱を聞きながら、真司は浦風に投じた。
タイムをかけて間をとるでもなく、あっさりと。
同点に追いついて勢いに乗る是礼打線が、そんな気のない球を見逃すはずがない。


カァーーン!


また甲高い音が響く。
2番の浦風の打球は左中間をあっという間に破り、センターの剣崎が中継の青葉に返した時には浦風は2塁ベース上でガッツポーズを決めていた。


止まらない猛攻。
クリーンアップの前に、勝ち越しのチャンスが出来た。



ーーーーーーーーーーーーーーー


(おうおう、坊ちゃんも遂に挫けてしもうたんかのう。可哀想じゃねえ。)

マウンドで孤独に佇んでいる真司を、東雲はニヤニヤと見つめる。
状況は勝ち越しのチャンス。
この試合を勝ち越すという事は、見えてくるのは勿論甲子園の舞台。
そして、"近年最弱" "ゴミの集まり" "救いようないポンコツども"などと散々罵られてきた自分たちの代の汚名返上だ。

(おう、お前らのう、よー見とけや。ワシらの強さをのう、これからナンボでも思い知らせちゃるけん!)

東雲は自軍応援席を睨む。
そこには、自分たちをイビり倒してきた先輩の姿も見えた。

「タイム!」

不意に主審の声が聞こえて、東雲は我に返る。
捕手の薫がマウンドに向かっていく所だった。
マウンドにワラワラと、ネルフの内野陣が集まっていく。
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ