暁 〜小説投稿サイト〜
誰が為に球は飛ぶ
焦がれる夏
参拾 奇跡の価値は
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<7回の裏、是礼学館高校の攻撃は、9番セカンド熊野君。>

是礼ラッキーセブンの攻撃は9番の熊野から。
この夏からレギュラーを獲得した小柄な3年生だ。

(代打はなし、か。俺の出塁能力を信用してくれたって訳だな)

熊野は左打席で小さな身をさらに屈め、小刻みに体を揺らしてタイミングを計る。

カン!
コキン!

明らかに嫌らしい構えから、ストライクゾーンに来た球をことごとくファウルにする。
ギリギリまで引きつけたスイングの為、ボールになるスプリッターにも中々手を出さない。
これまでの二打席もこうやってファウルを打ち、真司の球数を増やしてきた。

(俺はチビだし足も速くなければ守備も普通だ。けど、これができるから是礼でレギュラーになれたんだ!)

カウントは3-2のフルカウント。
真司の投じた真っ直ぐは高めに明らかにスッポ抜けた。

「ボールフォア!」
「よッシャっ!」

粘って粘って四球を選び、熊野はガッツポーズしながら一塁に歩く。

「真司が…」
「明らかなコントロールミスを…」

真司の十数イニングぶりの四球は是礼を勢いづかせ、そして何よりネルフの守備陣に動揺を生む。
ここまで絶対の信頼を寄せてきた真司の制球力が、見て分かるほどに翳りを見せてきている。
勝負するにあたって前提として持っていたものが崩れてしまった。
そして打順は、怖い怖い上位打線へ。

<1番ショート伊吹君>

アナウンスに、是礼応援席がワーッと歓声を浴びせる。ここまで3打数2安打、真司をよく捉えている主将の登場に期待が高まる。

応援席からは初回以来の「怪獣大戦争マーチ」。高らかに、しかしゆったりと響き渡るその音色がネルフ守備陣を威圧する。

(サインは打て、か。やっと信頼してくれたな、冬月監督)

冬月からのサインを確認した琢磨は、それ以降はベンチを見なかった。均整のとれた体格の背筋を伸ばし、バランスの良い構えで球を待つ。

琢磨を警戒する余りにか、真司の投球は外に二球外れた。琢磨は冷静に球を見極める。

(強気にインコースを突いてこなくなったか。怖いモノ知らずの2年坊も、少しは弱気こじらせてきたかな)

琢磨は次の一球に集中する。ストライクを取りに来た球を叩こうと構える。2-0の、まだ様子を見れるカウントだろうと関係ない。

(一球で仕留める。その為のあの素振りだ。)

代変わりした当初の打順は9番。
失った信頼を取り戻すべく、琢磨は毎日素振り500本以上をノルマにしていた。
その結果がこの夏の大会の活躍。
そしてこの場面での「打て」の指示。

(答えは結果で出すのみ!)

3球目のコースは膝下。恐らくスプリッターなのだろう。少し落ちたような気がしたが、そ
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