戦端は凡常にして優雅なりき
[1/6]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
南皮の居城での出撃前の事。
麗羽は夕と会う事が出来ずにいた。
先の戦の後、真名は交換したが袁家上層部の目もある為、気軽に会う事は出来はしないが、次の戦の事で少しでも彼女の明晰な頭脳を頼りたかった麗羽はどうしても会っておきたかった。
しかし現実は甘くなかった。今はどのようにして会いに行くかと執務室で一人頭を悩ませていた。
そんな折、一人の少女が自身の執務室にやってきた。
「本初ー、入るよー」
快活な声と共に入室してきた者は自身が一番苦手とする家臣である張コウ。ひょこひょこと爪先立ちで猫のように机の前まで近付き、立てかけてある簡易の折り畳み椅子を開いて腰かけた。
「なんですの儁乂さん? あなたがわたくしの部屋まで訪ねてきて下さるなんて……珍しい事――――」
「無駄話してる暇あんまりないよー。今部屋の前で立ってる護衛兼見張りがあたしの下僕だから時間あるだけだし。話が漏れる事はないけどあたしがここに長い事いるのはまずいんだよねー」
やんわりと綴られる忠告にすぐに口を閉じた麗羽は、申し訳なさそうにぺこりと無言で頭を下げた。
「何も黙らなくてもいいけど……ま、いっか。とりあえず夕から伝言――――」
「っ!?」
急に机の上にばっと身を乗り出した麗羽のあまりの勢いに、何事かと飛び跳ねて驚いた張コウはじと目で一睨みして元の位置に座らせてから続ける。
「がっつかないでよー、もう。
一つ目は……次の戦で公孫賛、関靖、趙雲の三人は確実に捕えること。殺しちゃダメだよってさ。後々の事を考えると生かしておかないと困る。
二つ目、今回はあのクズが軍師だから必ず外道策を使うだろうしそれを猪々子と斗詩とあたしで止めろって。ただ、毒との内応程度は許容範囲なので行きすぎない限りは目を瞑るべき。あ、戦端のは別ね。
三つ目、これは激励なのかな? 侵略を行う事になるけど潰されず心を強く持って。相手がどんな輩であろうと従わせられるほどの女になって。それに公孫賛ならあなたの助けになってくれるだろうから、捕まえた時に思いの丈をぶちまけたらいい。そうそう、あたしがその時は天幕周りを警備するよー」
本当に大丈夫か? というように張コウの大きな金色の瞳が訝しげに見つめていたが、目を瞑って何やら考えている麗羽には見えていなかった。
突如、麗羽の頬に涙の雫が一筋伝う。
「……なんで泣くのさ」
「いえ、あなたのお友達からのお心遣いが……嬉しくて少し……」
麗羽の心は歓喜に満ちていた。
本当は寂しくて心細かったのが大きかった。
だからこそ、麗羽は自身の事を考えて激励までくれる王佐に感謝し、感動の涙を流した。
「ふーん。ま、いいけどさ。夕からの言伝はこれくらいかな。本初から伝えたい事あったら言ってよ」
「で、では……その……」
急に話を振ら
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ