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乱世の確率事象改変
戦端は凡常にして優雅なりき
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た。
 袁家のやり口は汚くて、強引で、上に上がれば上がる程にそれが分かるようになった。
 だからかな。お前がどれだけ苦労してそこにいるのか分かってしまったんだ。
 汚いやり方を自分から望んでするような奴が、顔良や文醜とあんな風に笑い合えるはずないんだから。
「白蓮殿……。準備の程、万全となりました」
 隣に並ぶ星の一言に目を開く。
「ああ、じゃあ行ってくる」
 前方からは既に一騎、豪著な鎧を着こみ、煌びやかな金髪を幾重にも盛大に巻いた美女の乗った馬が突出して来ていた。
 舌戦。
 戦端を開くにあたって、麗羽は白蓮に言葉での戦を仕掛ける事を望んでいるということ。
 星に一言残した後、愛馬を駆り、軍列から突出し、離れて向かい合った。
「お久しぶりですわね、白蓮さん」
 優雅に、そして妖艶に、まるで魅了するような不敵な笑みを浮かべた麗羽が、戦の直前とは思えない一言を口にした。
「久しぶりだな、麗羽」
 気圧されぬように挨拶を一つ。
 そのまま互いに無言。吹き抜ける風は二人の髪をはためかせ、早くと急かしているように感じられた。
 すっと、静かに目を閉じた麗羽からは笑みが消え、次に開いた双眸には凍るような冷たさが宿っていた。
「降伏する、という選択は?」
「無い。ここは私の家だ。家を争うと押しかけてきた相手には、それ相応の対応をさせて貰う」
「我が軍がこの程度の数だけでは無い事も分かっておいででは無くて?」
「それがどうした。例え百万の軍勢を連れてこようとも、私達が袁家に従う事などありはしない」
「どれだけ多くを犠牲にしようとも?」
「幽州への侵略者は、白馬が命を以って駆逐し、殲滅するというのがこの地に住まう者の望みだ」
 それは、舌戦というには余りに静かで、短くて、簡潔なやり取りだった。
 両軍共に、全ての兵達は固唾を飲んで日常会話を行っているような二人に魅入っていた。
「なら、もう……」
「ああ、そうだ……」
 短い静寂の後、目線を合わせて微笑み、互いに剣を抜き放ち、
「言葉は要りませんわね」
「言葉は不要だ」
 切っ先を向け合い、指し示す。
「袁紹軍っ! 我らが覇道の、大いなる一歩に立ちふさがる大敵を蹂躙せよっ!」
「公孫軍っ! 我らが家たる幽州への侵略者を、徹底的に叩き潰せっ!」
 舌戦と同じく短い口上。すぐさま両軍からは凄まじい怒号が上がった。

 ここに、河北での動乱の大きな一幕の火蓋が切って落とされた。


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