決戦〜前夜〜
[7/7]
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
疑問が言葉となった。
帝国には勝てない。
彼がまだ中村透であったころ。
帝国に負けないためには単にアムリッツァを防げばいいと考えていた。
だが、アレス・マクワイルドになり、おそらくアムリッツァは防げないと知る。
アムリッツァの引き金を引いたのはフォークだ。
だが、銃を用意したのは同盟市民であり、それに弾を込めたのは同盟の政治家。
用意された銃の誰が引き金を引くかだけであり、仮にフォークが引かなくても引きたい人間は山のようにいるだろう。
むろんそれだけが理由ではないが、結局のところ……おそらくは負ける。
そう理解してもアレスは軍に入って、今も戦っている。
自分では英雄願望などないと思っていたが、実際にはあるのだろうか。
それが答えならば納得できるのだが、どうも上手く納得ができない。
軍を辞めればいいとも思うのだが、軍を辞める事は全く考えていない。
アレスはここにいたいと思っている。
だが、その理由を理解できないでいる。
中村透であった年月と現在の年月を足しても、なお年長の軍曹に対して、思わず愚痴が出た。
良いことではないと思い、振り返れば、カッセルが朗らかな笑みを浮かべていた。
「なに、謝ることはありません。私になど本音を語っていただいて、ありがたいと思います」
「負けると言われてもですか?」
「驚きはしましたが――何の根拠もなく勝てると思われるよりかは、遥かにマシな理由ですな」
先ほどアレスの言葉を真似て口にする軍曹に、アレスが首をかしげる。
カッセルが立ち上がり、腰についた雪を払う。
作業の進む陣地を見下ろせば残ったワインを飲み干して、アレスに手を差し出した。
「勝ち戦ばかりが戦争でもありません。負け戦も楽しいものです――生き残って、あの時こうすれば勝てたのにと愚痴を言いながらね。そうでしょう?」
「……ええ」
差し出された手をとって、アレスも小さく笑った。
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ