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銀河英雄伝説〜生まれ変わりのアレス〜
決戦〜前夜〜
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どちらも俺ですよ」
 問うたカッセルの言葉に、ワインを片手にしてアレスは苦笑した。
 グラスを空にして、新たに注がれるワインに視線を向ける。
 ワインを注ぐカッセルはグラスを見ていなかった。
 ただじっとアレスを見ている。

「軍曹はなぜいまも軍にいるのです」
 問われた言葉に、カッセルは小さく目を開いた。
 グラスを戻して、誤魔化すように笑えば、アレスの視線がカッセルを見ている。
 給料が良いから、それしかできないから言おうとした事が言葉に出てこない。
 誤魔化しの笑いが消えた。
「なぜでしょうな。昔はこれでもやる気はあったのですよ。悪しき帝国から同盟市民を守ると強く思っていた。そうこんな私でも英雄になれるのだと」

 ワインを飲み干して、苦そうに笑う。
 そうカッセル自身がまだアレスぐらいの年齢であったとき。
 戦場の最前線で、彼のビュコックやスレイヤーと共に戦っていたときの話だ。
 死など恐れず、自らの放つ銃弾が同盟を救うと信じていた。
「欲でしょうかな。十年が経ち、二十年が経てば、同盟などよりも大事なものが出来る。可愛くはなくても上手い飯を作る嫁ができ、生意気だが可愛い娘がいる。今では孫までできた。英雄になどならず、ただ平凡に生きていたいと」

 愛おしそうに片手を広げて、苦く笑う。
「そんな自分を過去の自分が見れば何というか」
 開いていた手を握りしめて、カッセルは息を吐く。
「あえて言うならば、そんな平凡な私でも妻や子供を守りたい。守れるのだと思いたいがために、いまだ軍にいるのかもしれませんな。馬鹿な考えでしょうが」
「馬鹿とは言いませんよ。同盟のためなどという抽象的な理由よりも、家族のためにと言った方が遥かにマシな理由です」
 ワインを手にしながら、覗き込むようにカッセルはアレスを見る。

 アレスがワインを一飲みすれば、ワインを注ぎ足した。
「少尉はなぜ軍に?」
「なぜでしょうね」
 返された言葉にカッセルは小さく眉をあげた。
 アレスが苦笑いを浮かべる。
「私は軍曹のように英雄になりたいわけでもない。そんな立派な理由などありません。なぜ入ったのか……入校式でも疑問だった、そして今もわからない」

 首を振って、アレスは息を吐く。
 吐いた息はすぐに水蒸気となって、白く消えていった。
「なぜ負ける戦いに挑もうとするのか」
 呟いた言葉に、カッセルが息を飲んだ。
 言葉を押さえるようにワインを一口飲み、唇を湿らす。
 手に持つグラスが小さく震えた。

「負けますか。それは……」
「軍曹に聞かせることではなかったですね」
 呟いて、アレスは首を振った。
 今話すべき話題ではない。
 ましてや、自分の部下に対して言うべき台詞でもない。
 しかし、思い続けてきた
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