決戦〜前夜〜
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アイスは頷いた。
僅かな不満の残る彼の肩に手をおいて、引き寄せてラインハルトは耳に口を近づける。
「だからこそ、俺達が変えるのだ。この腐汁に塗れた帝国を」
+ + +
会議室で、アレス・マクワイルドは苦笑した。
防衛計画の提出を求めた司令官に対して、他の小隊長は元々あった防衛計画を焼き直そうとする。司会を務める第一中隊長のスルプト大尉も概ねそれを認めており、防衛計画を作成すると言う名目で行われた会議は、開始五分で別の話題になっていた。
即ち、敵は本当に奇襲をかけてくるのかと。
先のこちらの攻撃が失敗したとはいえ、敵にも大きな損害を与えただろう。
ならば、中途半端に攻撃するよりも部隊の再編を優先するのではないかと。
その言葉が小隊長から出るや多くがそれに同意した。
戻ってきた部隊の再編についての話題が出始めて、アレスは机を指で叩く。
硬質的な音に咎める視線がアレスに向き、しかし、誰もが言葉を止める。
笑みだ。
唇だけをあげる――士官学校では誰もがその笑みに恐怖した――それが、会議室に居並ぶ中隊長を初めとする男達の言葉を止めていた。
「何かな。マクワイルド少尉」
「恐れながら中隊長。敵はきます」
「何を根拠に」
吐かれた言葉に対して、アレスは再び机を叩いて、言葉を制止した。
茶番だと、アレスは思う。
アレスは敵が奇襲を仕掛ける事を知っており、そして、その理由が同盟軍の壊滅ではなく、ラインハルトの殺害のためであることも知っている。
だが、そのような真実を告げたところで、彼らは信じる事をしないだろう。
そのためには、真実を隠して、嘘偽りで男達を信用させなければならない。
それを茶番と言わずに、何というかアレスは知らない。
もっとも――それが出来なければ、油断したままで敵の部隊を待ちうける事になり、結果は基地の壊滅だ。
彼らだけが死ぬのであれば、自業自得と思えども、それに自分や部下が巻き込まれるのは御免だった。
そもそも彼らも真に敵が来ないと思っているわけではない。
敵が来なければいいと希望が、敵が来ない理由を探しているだけに過ぎない。
立ち上がって、アレスは周囲を見渡した。
「敵に打撃を与えたといいますが、どれほどの打撃を与えたか御存知でしょうか」
誰も答えられない。
まだ正確な戦闘結果も届いていない。
負けたという事は知っていても、誰も戦闘結果を理解していない。
そんな言い訳が言葉に上がる前に、アレスは言葉を続けた。
「敵は大打撃を受けたかもしれない、あるいは全く打撃を受けなかったかもしれない」
「そんなはずはない。最初の報告では敵の正面を突破するまであと少しとの報告は受けている。敵の罠がなければ勝てていたと
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