第138話
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佐天と初春は再び声が重なり、ギョッとした目で美琴の顔を見る。
美琴はそんな二人の視線を気にせずにケースの留め具を外し、骨董品特有の古びた輝きを見せるバイオリン本体と、それを弾く弓を取り出している。
「ほい楽器。」
「ぶっ!?
な、投げないでくださいっ!!」
値段が全く想像つかない一品を初春はおっかなびっくり受け取る。
壊れるどころか汗がついただけで価値が下がるんじゃないだろうか、と固まっている初春。
美琴は初春の隣に立つと、適当な仕草でバイオリン各部を指差していく。
「じゃあ言った通りにやってみて。
左手で本体を握って、そっちの棒みたいなのを右手に持って弾くの。
楽器の尻を顎と鎖骨の辺りで挟んで固定してみ。
安物だから力加減とかあんまり気にしなくて良いわよ。」
「初春、ファイト!!」
次に自分が回ってくる事なぞ全く考えていない佐天は、他人事のように初春を応援する。
初春もこの爆弾を美琴に押し返したいのだが、その拍子にボキッと楽器が折れたら色々と一生モノな気がして大胆な行動に移れない。
と、カチコチ固まって指一本動かせない初春を見て笑っている佐天。
「ごめんごめん。
やっぱり口だけじゃ分からなかったかしら。」
指が全く動いていない初春を見た美琴が言う。
「え、ええ。」
「じゃあ手を使って教えてあげよう。
こうすんよ。」
美琴がそっと初春の後ろから両腕を回して、バイオリンを掴む。
その光景は幼い子供に母親が優しく教えるような格好である。
単なる偶然だが、初春の耳元に息を吹きかけるような姿勢でレクチャーが始まる。
「左手の弦を押えんのも大切だけど、まずは右手の弓の使い方よね。
難しそうに見えるかもしれないけど、弦に対して正しい角度で弾く事だけ覚えりゃ普通に音が出るから。」
初春の手に重ねるように合わせられた美琴のしっとりとした手が動く。
楽器を調律するような、細い一音だけが長く伸びた。
初春は少しだけ顔を赤くしながらも、美琴の言葉をしっかりと聞いてバイオリンを弾く。
何とか音を出す事ができ、初春も少しだけ笑みを浮かべる。
ちなみにだが、美琴は白井のような相手ではない限り、基本的に美琴は女の子に優しい。
「そうそう。
次に左手の使い方によって奏法が変わっていくの。
ピッチカート、グリッサンド、フラジョレット。
まぁ色々あるんだけど、どれも難しくないし一つずつやってみましょうか。」
「は、はい!」
少しずつだが、様になってきている。
佐天はそんな二人を見ながら思った。
(白井さんがこの光景を見たらどうなるだろうな。)
周りを見渡す。
すると、いつの間にか美琴達を中心に人だかりができていた。
おそ
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