暁 〜小説投稿サイト〜
剣の丘に花は咲く 
第三章 始祖の祈祷書
プロローグ 祖父
[1/3]

[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話
 日本に残る数少ない人の手が全く入っていない自然が広がるどこかの山奥。
 満天の星空の下、不自然に広がる草原の中、一組の人影があった。
 風の音と揺れる木々の音、微かに聞こえる虫の鳴き声のみが響く中、女性の声が聞こえる。

「―――このまま私とここで暮らしませんか……」

 人口の灯りなど全く無く、ただ月と星のみの明かりだけにも関わらず人影の一人、女性のその白い肌は月と星の光を反射させ、淡くその体を輝かせる。
 情事の後なのだろうか、汗が流れるその肌は、まるで桃のように淡く色づき、女の香気をむせかえるほどに漂っている。
 女は傍らに寄り添う男にしなだれかかりながら囁く。
 
「ここで一緒に……」
 
 無数の傷に覆われた褐色の肌を晒す男は、自分にしなだれ掛かる女の黒髪に手を置き優しく撫で始めた。

「すまない」

 男の短い答えを聞いた女は、微かに俯くとその豊かな胸がつぶれるほどの強さで男の体を抱きしめる。
 
「……死んでしまいますよ」
「かも、しれないな……」
「……怖くは……ないんですか」
「怖いさ……」
「なら……なんで……」
「すまない……」

 男を引き止めるため女は次々と言葉を紡ぐが、女の言葉は男の決意を揺るがすことは出来なかった。
 女は星の明かりに照らされた男の体に浮かぶ無数の傷跡の内の一つ、左肩から右胸の下まで走る、巨大な獣の爪で引き裂かれたような傷跡を指でなぞり始める。

「もう……治っているんですね……」
「ああ」
「一週間で治るような傷ではなかったんですけど」
「……」
「……もう……行ってしまうんですね……」
「……ああ……」
「……初めてだったんですが……」
「……………………」
「ふふっ、まあいいです。最初から分かっていましたから」
「……」
 
 褐色の肌に冷や汗を流す男を見た女は、微かに笑うと男から体を離し、男から三、四歩程歩いて離れると、くるりと体を反転させ、男と向き合った。

「―――大丈夫だとは思いますけど、ご飯は毎日食べること」

 星空を背にした女は、月をスポットライトにして草原に立つ。

「寝るときはお腹を冷やさないこと」

 月と星の明かりに照らされる女は、まるで太陽の光を反射させ輝いている月のように、月と星の光を受け輝いている。

「出来るだけお風呂に入ること」

 肩にかかる長さで切り揃えられた黒髪が、風に揺らぎ、彼女の香りが届く。

「……時には休み、自分の体をいたわること」

 夜空の下、草原の中に立つ彼女は……

「―――そして……」

 壮絶に綺麗だった。

「ちゃんと……幸せになること……」


  
  

 風の音と揺れる木々の音、微かに聞こえる虫の鳴き声が響
[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ