第2部:学祭1日目
第10話『岐路』
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の時、本当に桂さんを案じていたと。
屋上で、桂さんが澪ちゃんの隣で、元気そうでいた時は、本当にうれしかったと。
思わず涙ぐみ、この人の豊満な胸の中で泣いていたこと……。
「ま、そう言うことにしとくわ」
「私も、貴方のことが嫌いなわけじゃないし」
律があきらめたような口調で、梓がため息をつきながら、澪に同調する。
「貴方には、どうしてもあきらめられないワケがあるのですか、平沢さん?」
「……」
言葉に問われても、唯は反論できなかった。
確かに、自分にはそれほど、背負い込んでいるものなんて、ないんだ。
「桂さん……」唯はひきつった笑いを彼女に向け、「それなら、あまりマコちゃんにべたつくのもよくないんじゃない? マコちゃん嫌がると思うし……」
「それはこちらのセリフです」
そっけない答え。引き寄せた腕も、放そうとしない。
唯の胸が、誠の心が、痛くなる。
「ほら、唯先輩、行きますよ!!」
「あ……。じゃあお休み、マコちゃん。」
梓に腕を引っ張られ、唯は誠と別れた。
「おやすみなさい」
彼は笑顔で、答える。
澪が彼を、心配げな目で見ていることに、唯は一瞬、感づいた。
そして、自分に向けられた、誠の複雑な視線も。
唯達が去って、マンションは静かになる。
虫の音が、聞こえ始めた。
「誠君……。今日は誠君のおうちに泊まっていいですか?」
「え……無断外泊はまずくないか?」
「大丈夫です。お父さんもお母さんも仕事でいないし、このまま明日も、ずーっと誠君と一緒に過ごしたいですから。学祭はさぼっても大丈夫でしょう」
「……そうなるか……」
泰介に怒られそうなんだが。
ともあれ、正直、言葉と一緒に昼まで寝過ごすのも悪くないかもしれない。
その時、アメ車のように大きい、黒いベンツの車が、誠のマンションの前で停車する。
「うわっちゃー……うちの車だ……」
言葉の隣で、心が頭をかきながら苦笑い。
「何でここが分かったんだろう……」
「実はお父さんに、今日は誠くんちで食事を取るって言ってたんだよね……。お父さんもお母さんも、今日は仕事で帰れないって言ってたけど、まさか早く終わるなんて……」
残念な表情の心。言葉もがっかりした表情である。
彼は、無言でいた。
言葉も、唯ちゃんも、危機に陥っている。
なのに自分は……何もできずにいる。
「しょうがないですね。明日早く起きて、学祭に行くことにします。本当はずっと誠君と一緒に過ごしたいんですけど。8時に校庭で、待っていますね」
なんとなく、言葉との約束を守れるかわからなくて、誠は、
「……行けたらね……約束はできないけど……」
とだけ、答えた。
「誠君……」疑心的な、心の目。「もしかして、平沢さんって人に未練がある
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