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Cross Ballade
第2部:学祭1日目
第10話『岐路』
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が、『止さん』と聞いて、急に背筋に悪寒が走った。
 右こぶしに、力が入り、ガタガタ震えだしていく……。
「そう言えば誠、お前の親父の名前も『止』なんだっけ。
止って、俺が赤ん坊の時に家にいた父ちゃんの名前だって、姉ちゃんから聞かされたことがあるんだけど、これって偶然かなあ」
 泰介の言葉も、全く耳に入らず、
「悪い……泰介……ちょっと気分が悪くなったんで……切るな……」
「ちょっと待て! 質問に答え……!!」
 一方的に切断ボタンを押した。
 上がっていく息と、湧き上がる怒り……。
 どうすることもできない。
「親父の野郎おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
どおおおんっ!!
 力任せに、壁を叩いた。
 それでもムシャクシャが収まらず、また拳に力を入れると、びりっと壁が破れる。
「親父め……俺はあんたとは違う……唯ちゃんはあんたなんかに渡さない……」
 震える声で……。
 外に、聞いている人間がいるとも知らぬまま……。


「伊藤……」
 澪は、誠の部屋の茶色いドアの前で、耳をそばだてて聞いていた。
 いつもの彼女なら、怖がって逃げだすはずなのだが、なぜか恐怖はなく、代わりに悲しさと重い気持ちでいっぱいになっていた。
「秋山さん」
 言葉が、そばに来る。
「桂……。伊藤、つらそうだなと思って……どうも沢越止が、何かしたらしいんだ」
「そうですか……。私も誠君に、家族のことについて聞いたことがありましたけど、お父さんのことは、話したくなさそうでした。
その理由が、分かる気がします」誠の部屋のドアを見ながら、言葉は言う。「秋山さん達で、平沢さんを守ってやったらどうですか? 交代で平沢さんの家にいて、様子を見るとか」
 何だか他人事のようなアドバイス。まあ桂は、彼とのデートがあるから、しょうがないか。
「文字通り隔離ということか……。だけど明日は学祭最終日だし、唯は伊藤が好きだしな。本人が納得するといいんだけど」
 むすっとなった言葉。澪の中に焦りが広がる。
「……誠君の彼女は、私です」低い声で言葉は答え、「まあ、今夜は誠くんちに泊るつもりですよ。2人きりになったところで……」
 急に顔を赤らめた。
「……いや、その先は話さなくていいから。察しはつくし」澪も頬を染めて、「そのまま、外に出ないほうがいいかもしれないな。甘露寺達も狙ってるって話だしな……」
「もちろん、そのつもりです。平沢さんだって近づけたくないですし」
 急に言葉は、ニッコリした。
 澪は、その顔をみて、さらに気持ちが重くなり、唯のことを思い浮かべながら、
「少なくとも、伊藤がどちらを選んでも、あいつの気持ちを大事にしてくれ。
あいつが親父のことで、どれだけ苦しんでいるかも、分かってくれ……」



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