暁 〜小説投稿サイト〜
Cross Ballade
第2部:学祭1日目
第10話『岐路』
[2/9]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
る誠と、はぐらかす止。
 しばらく、沈黙。
 その中で誠の母は、息子の目の変わりようを冷徹に見ていた。
(あの子……)
「唯、どうした!?」
 律・澪・世界・言葉・憂・いたるが玄関にやってきた。
「! おとーさん……!!」
 いたるの顔が、恐怖と嫌悪の表情に変わった。
「いたる、迎えに来てやったぞ」
 いやがるいたるの手をぐいと引っ張り、止は自分の隣に引き寄せる。
「いたる……」
 思わず誠は、いたるを気にして唯から離れてしまう。
 唯はふと、慣れない感触にぞくっとなった。
「あ……」
 止の手が、唯の太ももをさすっている。
「く、貴方……!!」
 憂が出るより早く、誠が止の手を弾き飛ばす。
「手を出すんじゃないよ……!!」
 彼の声は、自分でも信じられないぐらい、荒い。
 鋭い目から出る威圧が周りに広がる……。
 逃げ出そうとする澪を、律は驚愕と焦燥の表情のまま抑えた。
 止は、誠の手を乱暴に払いのけ、
「いつまでそんなことを言ってられるかな?」
 嫌がるいたるの手を引いて、さっさと踵を返す。
 一瞬、その濁った目が、ちらりと唯を見た。
 それを感じ取り、誠は唯を守るように、さらに体を密着させる。
 それに気づいたときには、唯の鼓動はトクトクと速くなっていた。
 さりげなく、彼の腕に自分の腕を回す。
 ぬくもりが自分に、伝わってくる。
 それに気を取られ、言葉の嫉妬でいっぱいの眼光も、世界の悲しげな表情にも、気づかなかった。
 もちろん、「おにーちゃんと、はなれたくないー!」という、いたるの泣き声にも。


 皆皆気を取り直し、明かりがぼんやりとともるリビングで、手前勝手に座る。
「何、あの人……?」つややかな檜のテーブルに座った唯は、さっぱり状況が分からない。「マコちゃんの知り合い……?」
「沢越止。私の元夫」
 唯の斜向かいに座った誠の母は、冷めた声でため息をついた。
「止……?」
 ソファーに座った世界がふと、思案顔になる。
「おばさんの旦那さんってことは……」
「伊藤の親父さんか……」
「はい……」唯の隣にいる誠の表情は、暗い。「でも浮気症で、しかもやたら外で子供を作ることに熱心で……。ほとんどごろつき同然ですよ」
 ぎろっとソファーから、梓の冷たい視線。
 二股も三股もかけたあんたが言うな、という目つきである。
「私も口説かれて、ついつい結婚しちゃったけど……あんな人とは思わなかった」
 乾いた目で、天井を見上げる母。
「まあよ」立っている律が間に入り、「唯を変な目で見てやがったけど、唯がひとりっきりじゃなくて良かったぜ。持つべきものはダチだよな」
「自分で言うか」隣で澪は呆れて、「まあ、とりあえず良かったですよ」
「そうね。不快な思いをさせて、ごめん
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ