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銀河英雄伝説〜悪夢編
第五十三話 忠告は遅かった
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、気を付けます。子供達にも注意しておきますわ」
「うん……」
「貴方?」
妻が訝しげに俺を見ている。

「いや不自由になったものだと思ったのだ」
「……」
「昔は出世したいと思ったが今思えば何も分かっていなかったな」
俺の言葉に妻が頷いた。妻も出世する事の窮屈さを感じているのだろう……。



帝国暦 489年 4月 10日  フェザーン 自治領主府 ラインハルト・フォン・ミューゼル



「ケッセルリンク補佐官、アルバート・ベネディクトの引き渡しの件、フェザーンはどのようにお考えかな?」
俺が言葉をかけると正面に座ったルパート・ケッセルリンクは愛想の良い笑みを顔に浮かべた。もっとも目には何処かこちらを馬鹿にしたような光が有る。慇懃無礼という言葉を人間にすれば目の前の男になるだろう、好きになれない奴だ。応接室に通されてもこいつが相手かと思うとウンザリする。

「帝国政府からの要請ですから当然重く受け止めています。それにミューゼル少将にとってはグリューネワルト伯爵夫人はたった一人の肉親と聞いています。なんとかお気持ちに沿いたいとは思いますが……」
「……」
「少々難しいと言わざるを得ません」

少々? 物は言い様だな、ケッセルリンク。姉上の事を口にしたのは俺を挑発するつもりか? 今回でお前と話すのが何度目だと思っている、もうその手には乗らん。というより今では姉上を殺された悔しさよりお前に対する腹立たしさの方が上だ。
「難しいと言うと?」

「エルフリーデ・フォン・コールラウシュですか、いささか取り調べが強引ではありませんかな。自白したという事ですが信憑性に欠けます、それだけで引き渡す事は……」
ケッセルリンクが首を横に振っている。

「つまり引き渡しは出来ないと」
「そうは言いません。アルバート・ベネディクトが伯爵夫人の殺人に関与しているのであれば帝国に御引渡しします。そのためにもこちらでベネディクトを調べたいと思います。もう少しお時間を頂きたい」

ようするに帝国は信用できないというわけだ。アルバート・ベネディクトに冤罪を着させようとしている、そう言いたいのだろう。確かにあの捜査方法は非道だと非難されても仕方ない部分は有る。いかにもあの根性悪の最高司令官が行いそうな手段だ。

しかし自白が嘘だとは思えない。俺が調べてもアルバート・ベネディクトとフェザーン自治領主府は密接に繋がっている形跡が有る。フェザーンの依頼で最高司令官を暗殺して帝国を混乱させようとしたのは間違いない。連中にとって予想外だったのはあの女が姉上を標的にした事だろう。

いずれ証拠不十分、或いは冤罪だとして引き渡しを拒否するか、正面から帝国に敵対するのは拙いと考えてアルバート・ベネディクトを反乱軍の領内に逃亡させるか、その
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