反董卓の章
第19話 「「「 負けるな、バカァ! 」」」
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何かが擦ったような後だらけになった主。
それだけ見ても、この勝負が主に不利であることが見て取れた。
「あの主が……」
私が思わず呻く。
これほどまでに憔悴し、苦戦する主の姿など、私は一度も見たことはない。
いつも簡単に相手の攻撃をいなし、躱し、そこに交差するように強烈な反撃を織り交ぜて、相手を倒してきた主。
あの雲長殿や翼徳殿ですら、あの黒い服を纏った主相手では難儀していた。
その主が……ここまで疲労する姿など、見たことがない。
「……どうして本気で来ない? お前、このままだと死ぬ。恋に勝てない」
呂布が如何にも不思議そうに主に尋ねている。
呂布は、主が本気を見せていない、そう言っているのだ。
だが……
「……………………」
息を整え、その目だけは全く別人のような殺意を宿す主は答えない。
私から見ても、今の主は別人だった。
いつも真剣な眼で事にあたりながらも、どこかで余裕を残す眼。
それが今は……まさに手負いの獣。
まるで余裕がなく、触れれば味方であっても牙を向く、そんな凶暴な瞳。
「ある、じ……」
この人は……本当に私が敬愛した主なのだろうか。
本当に北郷盾二、天の御遣いなのか……?
「っ!」
息を整え終わった主が、返答もなくその場を駆け出す。
その動きはいつにもまして疾く、鋭く、私の眼には映る。
だが――
「……遅い」
主が呂布の足元に潜り込もうとするのを、呂布は武器を叩きつけて地面を砕き、その土砂で足止めする。
それを間一髪宙に跳び上がって避け、そのまま前転して踵落としをしようとした主。
だが、すでに呂布はその背後にいた。
「なっ!?」
呂布の動きは、私にはまるで二人いるようにしか見えなかった。
それほどの速さ。
その背に戟を振るい、主がそれを受けて吹き飛ぶ。
地面に叩きつけられ、受け身を取りつつも反射的に態勢を整える主へと目が動いた瞬間。
その主の前に、更に呂布がいた。
「三人!?」
私の眼には、三人目の呂布が主の前に出現したように見えた。
「ガッ!?」
その呂布に追撃を受け、更に後方へ弾かれる主。
その体は、遠巻きに円陣を組んでいた敵兵の中に吹き飛び、その周囲の兵ごと土煙を上げる。
「「「「 オオオオオオオオオオオオッ! 」」」」
巻き込まれた兵の悲鳴より、その武勇に歓喜する兵の声で辺りが包まれる。
私を含め、劉備軍の兵は、誰一人として声が出せない。
――当然だ。
我が軍、最強の兵士と思っていた我が主、天の御遣い、北郷盾二が。
全く相手にならずに、あしらわれてい
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