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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第六話 栄誉ある死か 恥辱の生か
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気がする、俺も所詮はその程度の人間か。
「夜襲地点の付近から帝国兵の軍服を二十人分調達した。
これを着て夜間に村を襲う。当然住民は殺さない。」
 新城が説明を続ける。
「翌朝、皇国軍が村を訪れる。帝国軍の接近を警告し近衛に引き渡す。
後は彼らが村人達を護送して近衛に預け。我々は村を焼き、後退する」
 漆原が顔を歪めて質問する。
「我らが転進した後に美名津も攻撃されるのでは?
それに受け入れを拒否したらどうなるのです?」
 ――おいおいこれは基本だぞ。
余裕がないからか、馬堂少佐は珍しく部下の前で苛立たしげに教える。
「美名津は〈大協約〉における市邑保護条項の適用される“軍事設備のない人口二千人以上の集落”という条件を満たしている。
 ――そして、受け入れ交渉は実仁親王殿下が直々に要請なさる可能性が高い。
それでも受け入れを拒否するのならば――避難民の恨みを買うことになる、その先まで近衛も我々も責任を取る必要はないだろう?」
 沈黙の帷がおりた中で淡々と大隊長は構想を告げていく。
「まず真室の穀倉を焼き払う、その為に一個小隊を派遣する。
穀倉の破壊が完了した後は、水軍より救出と破壊の確認のために船が送られる事になる
それまでに発見されたら降伏しても構わない。
――勿論、その前に何としても穀倉に火を着けてもらう、これは義務だ。
この場にいる者達、そして北美名津で凍えている鎮台主力を見殺しにする事は許さない、この命令は絶対に厳守してもらう。」
 皆を見回しながら言葉を続ける。
「増援が到着したら部隊を遅滞戦闘隊と避難誘導、及び焦土化を行う隊に分ける。
避難誘導隊は輜重の馬車等を徴発し、村民の輸送に利用する。
その後、南下して苗川の渡河点、小苗橋にて布陣をし、野戦築城に取り掛かる。
以上が大隊長の構想だ。」
 一息ついて黒茶を飲む馬堂少佐の代わりに新城が口を開く。
「誰か質問はあるか?」
 西田少尉が手を挙げ、訊ねる。
「近衛達には教えるのですか?」
「まさか、機密は知る者が少なければ少ない程、漏れないものだ。それに宮様に泥をかぶせる真似はできない。
近衛には誠心誠意、民草を暴虐な帝国軍から人々を逃がして貰う。」
 将家間の勢力争い、その激戦区である軍監本部に籍を置いていた馬堂豊久はことそうした類の事柄に関してはこの大隊の中では誰よりも鼻が効く男であった。
「汚い・・・」
 漆原が言葉を絞り出した。
「汚い!そこまでして戦わねばならないのですか!」
 
  ――青いな。正義感と正義を混同している。
正義なんていつだって強者の後付で決まるものだ、弱者だって生きたいのだ,正義を定めたいのだ、それの何が悪い。
 生死をかけた闘いの中で、兵を率いる将校が生き延びる手段にこだわってどうなるというのだ、
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