第一部北領戦役
第六話 栄誉ある死か 恥辱の生か
[4/7]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
)を無くせば良い。
補給が無いなら自活の場を壊せば良い。」
漆原が反応する。何を言うのか予想出来たのだろう。
「この先に糧秣庫は――友軍の集結地までありませんが・・・」
「漆原少尉、話を聞いていたのか?
糧秣庫には金目の物も女もめったに見つからないぞ?
連中が戦争を楽しむ最大の場所は町だ、村だ。
この北領では衆民から奪い、衆民を犯し、帝国の地としているのだ。
我々はそれを破壊する事で鎮台の兵達を救わなければならないのだ」
漆原は認めたくない事を認めて座り込んだ。
――無理も無い。
内心では豊久とて良い気持ちはしない方策であるしそれ自体〈皇国〉軍民のほぼ総員が禁忌と捉えるであろう方策であった。
これは〈皇国〉と〈帝国〉の戦争観の違いは〈皇国〉を統一する為に五将家が敵対勢力を切り崩す為に村落、都市の自治権を認める事で地盤を強化させり方策を伝統的に行っていた事が理由であり、五将家の軍から伝統を引き継いだ〈皇国〉軍が村落からの徴発に頼らず兵站を重視する理由であった。
「おそらく、今の〈帝国〉軍占領地は――東州のようになっているだろう。
村民に対してはそう云って〈大協約〉の保護が効く都市まで退避させる」
一瞬言い淀んだ大隊長は首席幕僚を気遣わしげにちらりと見た。
――四半世紀の太平の世でなおこの伝統が生き残った理由は〈皇国〉の最後の大規模な内乱である東州内乱が村落徴発を一種のトラウマにまで高めていた事も大きい。
東州内乱、林業・工業が盛んであった東州を治めていた目賀田が人口の増大と食料自給率の上昇によって独立の為に反乱を起こし、五将家から袋叩きにされ敗北した。
だが問題はその後であった、壊乱した東州公の軍は徴発という名の略奪・暴行を行い豊かであった東州は荒地と廃墟が残るばかりとなってしまった。その荒廃がどれ程酷いものであったかは、東州を恩賞として得た安東家が財政赤字から脱却するまでに十五年以上かかった事からも伺えるだろう。
――そして、村民に行われた蛮行の生き証人であり、大殿様――駒州公駒城篤胤様に拾われた新城直衛が――俺の隣に首席幕僚として座っている。
「大隊長殿・・・まさか・・・」
何を命じられるのか気づいたのだろう、杉谷が掠れた声を絞り出す。
「そう、我々は帝国の略奪を防ぐ為に村を破壊し、衆民を美名津へと避難させる。
美名津への輸送は実仁准将閣下の近衛旅団に任せる。
村民を近衛の元へと誘導し、我々は村を破壊する。
ああ、その後に井戸に毒も入れなくては、この時期ならば効果的だからな。」
「しかし、村を破壊したら軍への信頼が失われます!」
妹尾少尉も怒りを浮かべながら反対する。
「――首席幕僚。」
頷き、猪口曹長が差し出した軍服を指す。
――嫌な役目だけ押し付けている
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ