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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第六話 栄誉ある死か 恥辱の生か
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「分かっててもいうな、縁起が悪い。
お前にいざ、死して護国の鬼とならんなんて殊勝な気持ちが欠片もないだろうに。」
「貴様にだけは言われたくないがその通りだな。」
「生憎ですが、俺はこれでも将家だからね。題目通りの献身はしますよ、死ない程度に。」
 ――俺の言った通りじゃないか。そう首席幕僚は云って細巻をふかすと笑みを浮かべた。
「随分と上物だな。」
「南塊産の高級品だ。流石は水軍の選良士官だな――此処に、餞別に貰った細巻入れがもう一つ」
 そう言って豊久は上機嫌に細巻入れを見せた。
笹嶋は転進が成功したら統帥部戦務課に栄転するらしい、馬堂家を継ぐ身である豊久としてもここで水軍中枢を担う身になりうる人物を戦友として得られる事は実に喜ばしい事であった。――上機嫌なのは単純に嗜好品の補給ができたことだけではない、ない筈である、多分。

「半分くれ。で、本当に小隊を真室の穀倉を潰す為に送るつもりか?
水軍の船も回して貰うのだから二度手間になると思うが」

「海が荒れていると中佐が言っていたからね。
砲撃する前に沈まれたら困る。俺の計画ごと文字通り水泡に帰するのは非常に困る。
せめて陸路からも行動しないと保険が利かない博打を打ちたくないからな。
運以外の全ての要素、いや運すらも塗り潰さないとこの作戦は成立しない――おい取りすぎだぞ」
 三分の一も残ってない細巻入れを見て肩を落としている上官を無視して新城は言葉を継ぐ。
「確かに、
だが、向かった小隊は、ほぼ確実に戦死か捕虜になるぞ。人選はどうする?」
 何時の間にか火を着けた高級細巻をふかす新城を睨みつけながら自身の鉄杯に黒茶を注ぎ、大隊長が云う。
「そうでもないさ、海が落ち着いたら水軍に回収してもらうよ。
もし、その前に発見されても役目を果たしたのなら降伏を許可するつもりだ。
――人選はどうしたものかね?お前は駄目だ、前線の戦闘は可能な限りお前に指揮をとって貰いたい、剣虎兵の運用は独特だからな。そうだ、漆原はどうだ?」

「あいつは駄目だ。真面目過ぎる、この手の事は、理解はしても納得しない」

「まさか途中で逃げるとは思はないが――」

「降伏する前に戦死を選ぶかもしれない」
 首席幕僚の冷厳な言葉を聞き、大隊長は黒茶に口をつけながら渋面をつくる。
「じゃあ妹尾も駄目だな。あれも生真面目が過ぎる。
――杉谷は施条銃の専門家だから手放したくない、剣虎兵の支援に熟練している鋭兵は貴重だからな。
西田はお前が居ない時の剣虎兵の纏めに必要だし――兵藤はどうだ?」

「それが最適だろうな、当面は補給が届き、貴様が命令を下せば動ける状態になるまで待つことだ」

「急ぎ指揮官集合をかけよう。増援と補給の第一便が届いたらすぐに動けるようにしたい」
頷き、
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