第一部北領戦役
第六話 栄誉ある死か 恥辱の生か
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皇紀五六八年 二月 十三日 午前第九刻 独立捜索剣虎兵第十一大隊 大隊長天幕
独立捜索剣虎兵第十一大隊 大隊長 馬堂豊久少佐
結局――笹嶋中佐への頼み事は二つに増えた。
首席幕僚である新城が捕虜取引の時の便宜を進言し、笹嶋が了承したのであった。
笹嶋中佐はもう一つの後衛戦闘を行っている部隊――実仁准将殿下率いる近衛衆兵第五旅団の本部へと立ち去った。
笹嶋に託した要請書に書き込んだ補給品、補充人員の目録を斜め読みしながら馬堂豊久が云った
「お前さんも抜け目無いな。もっと遠慮するかと思った。」
「何、十中八九死ぬと思われているんだ。捕虜になった時位は報われてもいいだろう。」
新城直衛大尉も二人きりなので砕けた口調になっている。
「それに貴様だって補給やら増援やらで随分と欲張ったじゃないか。
貴様の面の皮の厚さは知っていたが彼処までやるか。」
「ハッ!どうせ港で冷凍保存しているだけなら此方の宴で振舞えって事だ。
どうせ砲は船に載せられずに壊すのだろうし、俺達が有効活用しないと工廠の職員達も悲しむだろうさ。」
パチン! と指を鳴らしながら馬堂少佐が言った。
「全く、たちの悪い客だな。これで代金を払えなかったら地獄まで追って殺されるぞ」
新城も云い、ニヤリと笑った。
「その顔で言われると真実味がますな」
馬堂豊久少佐はそういって新城直衛大尉の軽口を鼻で笑う
「まあ代金分を稼いでも死ぬつもりはさらさら無いさ。
算段はある程度つけてある、俺だって馬鹿じゃない」
「そう言われると不安になるな」
新城は細巻に火を点けながら笑う。
「言ってろ、内地に戻ったら若殿に言いつけてやる。
俺は死ぬときは床の上か餅を食っている時と決めているんだ」
などと軽口を軽口で返しながら豊久も細巻に火を点けた。
――うん、上物だ。
補給が途絶してからは節煙していた分、豊久の気を落ち着かせるには十分な旨さだった。
「餅は苦しいらしいぞ」
「じゃあやめだ。風呂場でぽっくり、にしよう」
「――贅沢だな」
新城も旨そうに細巻をくわえた。
「それにしても馬堂少佐に新城大尉、か。随分と守原も気前がいいものだ」
「多分、将家の者と衆民の差別化を図ったのだろうな。まぁそれも・・・」
そこまで言って口篭った。
――駒城への貸しも兼ねてだろうな、死ねば嫌われ者の此奴も英霊だ。
この男の係累は血の繋がっていない駒城家だけ、後腐れもない以上、守原も褒め称えるだけなら言葉を惜しまないだろう。
我が鎮台の忠良なる云々――などとあの逃走大将ほざいている姿が目に浮かぶようだ。
「ああ、どうせ死ぬからと。」
新城があっさりと飯屋で注文するみたいに言うと豊久はがくり、と肩を落とし、苦笑する。
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