第百四十八話 伊勢長島攻めその十四
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「与三殿をお助けする」
「ですか、それでは」
「何、戻って来る」
市と子供達を心配させまいと言う。
「長い戦になるやも知れぬがな」
「一向宗との戦はですか」
「うむ、長いものになるやも知れぬ」
だからまた城を長く空ける、しかしだというのだ。
「それでもな」
「待っています」
これが市の返事だった、確かな顔での言葉だ。
「それでは」
「うむ、それではな」
長政も確かな顔で応える、そうしてだった。
家臣達の前に出てもだ、挨拶を済ませてすぐに言うのだった。
「皆出陣の用意は出来ておるな」
「はい、そう仰ると思いまして」
「既に」
家臣達もそのことはわかっている、それでだった。
彼等もすぐに応える、そして言うのだった。
「ではな」
「はい、それでは」
「今より」
まさにすぐにだった、浅井家は出陣の用意に入った。
長政は具足と陣羽織を身に着け彼の甲も被った、浅井の紺色の軍勢は意気揚々として小谷城を出る。長政は見送りの市にこう言うのだった。
「思えばな」
「はい、こうしてこの城を出るのもですね」
「夢の様じゃ」
そして市の見送りを受けるのもだというのだ。
「まことにな」
「そうですね、本当に」
「生きておるとはな」
彼が今思うのはこのことだった。
「そして御主の見送りを受けるとはな」
「本当ですね」
「そうじゃな、ではな」
「近江の門徒達を降す」
その彼等をだというのだ。
「そしてそれからもじゃ」
「戦は続きますね」
「そうなるであろう」
本願寺は各地で一機を起こしている、それでは戦が長くなることも言わずもがなだった、それで言うのだった。
「しかしな」
「必ずですね」
「戻って来る」
市の前、小谷城にというのだ。
「それまで楽しみにしておいてくれ」
「そして兄上も」
「お助けして来る」
信長、彼をだというのだ。
「そうしてくるわ」
「それでは」
「うむ、行って来る」
こう話してだった、長政は勇んで出陣した。その彼と率いる軍を見送りだ、市は子供達に微笑んでこう言った。
「いいですね、それでは」
「はい、部屋に帰りですね」
「そのうえで」
「よく休みましょう」
そうしようというのだ。
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