第百四十八話 伊勢長島攻めその十一
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「仕度をせよ」
「火攻めのですか」
「それを」
「いや、それもあるがじゃ」
それと共にだというのだ。
「近江に向かう仕度をせよ」
「今からですか」
「それをですか」
「そうじゃ、仕度をせよ」
今からだというのだ、近江に向かう用意もせよというのだ。
「陣を払うな」
「そのうえで火攻めですか」
「それをされますか」
「そうじゃ」
まさにそうしろというのだ。
「ではよいな」
「はい、それでは」
「今から」
こう話してそしてだった、彼等は非攻めの用意と共に近江に向かう支度もした。そうしてそのうえでだった。
彼等は城に火を点けた、滝川は周りに火薬を置いたうえで忍の者達を使って素早く点けさせた、すると瞬く間に。
長島城は紅蓮の炎に包まれた、かくして。
城の中から怨嗟の声が聞こえてきた、だがその声は。
南無阿弥陀仏という念仏はなかった、そうしたものは一切なく。
信長、そして織田家への怨嗟の声ばかりだった。その声を聞いて誰もが眉を顰めさせる、だが信長はというと。
毅然として城を前にしている、その信長に平手が問う。
「殿、宜しいのですな」
「城のことか」
「はい、前にされて」
「わしが決めた」
この火攻めをだというのだ。
「だからじゃ」
「この声を聞かれますか」
「そうする」
まさにだ、そうするというのだ。
「このままな」
「ですか」
「あの二万の声は受ける」
己への恨みの声をというのだ。
「ではな」
「わかりました、それでは」
「それよりも爺」
平手にもだ、信長は告げた。顔は燃え盛る城を見たままだ。
「御主も来い」
「近江にですか」
「うむ、来るのじゃ」
そうしろというのだ。
「わかったな」
「殿のお言葉ならば」
平手はすぐに信長に応えて言う。
「是非共」
「それではな。ここには彦九郎と二万の兵を置く」
「それで後始末をしてですか」
「近江じゃ」
次の戦に向かうというのだ。
「与三を助けるぞ」
「今与三はどうしておるでしょうか」
「今朝文が来た」
お海からのものであることは言うまでもない。
「それによればな」
「危ういですか」
「猶予はならぬ」
そうした状況だからだというのだ。
「だから今のうちにじゃ」
「近江に向かう用意を進めますか」
「このまま城が燃え落ちてから向かう用意をすればどうなる」
「はい、発つのは夕刻になるかと」
火の勢いを見ると焼け落ちるのは昼だ、城が陥ちるかどうかは見極めねばならない、しかしそれを見届けてから発つのはというのだ。
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