第百四十八話 伊勢長島攻めその八
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「だからどうじゃ」
「降らぬ」
まだこう言う声だった。
「決してな」
「まことか」
「ふん、何度言われてもだ」
実際に門を開けようとしない、頑なである。
その頑ななものを見てだ、石田が羽柴に言った。
「ここはもうです」
「去るべきかのう」
「これ以上いてもです」
この場にだ、そうしてもだというのだ。
「向こうも聞きませぬ」
「だからか」
「言うべきことは言いました」
長島城の二万の門徒達にだというのだ。
「ですから」
「そうか、ではな」
「それにです」
ここで島も言う。
「そろそろ撃ってきますぞ」
「鉄砲か」
「それも尋常な数ではありませぬ」
島は城壁、それに門のところにある櫓を見ている。そこには鉄砲だけでなく弓矢も多く見えるがその鉄砲がなのだ。
「今用意されています」
「ふむ、ここにこれ以上いてもじゃな」
「蜂の巣にされます」
「確かにのう」
ここでだ、羽柴も火薬の匂いを嗅ぎ取った、それでだった。
すぐにその場を去り信長に伝えた、信長も一部始終見ておりそのうえで言う。
「ご苦労であった」
「降せませんでした」
「何、それも覚悟の上じゃ」
そのうえで彼を送ったというのだ。
「しかし御主は何としても生きるからな」
「だからそれがしを選ばれたのですか」
「そうじゃ」
まさにその通りだというのだ。
「そうしたのじゃ」
「確かにそれがしは生きるつもりですが」
「あそこで城の中に入り一命を賭してでもというのは困る」
そしてそれは何故かというと。
「御主達はわしの家臣、一人も欠けてはならぬ」
「一人もですか」
「そうじゃ、一人もじゃ」
断じて、という口調だった。
「だからこそじゃ」
「そうでございましたか」
「無事で帰って何よりじゃ、ではな」
「はい、朝まで待ちましょうぞ」
こうして今は待つのだった。その話の後で。
羽柴のところに明智が来た、明智は羽柴にこう言うのだった。
「先程のことですが」
「殿のことですか」
「火攻めはそれがしが言うつもりでした」
言うのはこのことだった。
「あえて」
「火攻めで二万の者を焼けとですな」
「そう言うつもりでした」
降らないなら仕方がない、それでこの残忍と言ってもいい攻めを言うつもりだったのだ。
今織田家は早いうちに近江に向かわなくてはならない、兵糧攻めはおろか普通に攻めて何日もかけることは危険なのだ。
それで火攻めで一気に、と言うつもりだった。しかしそれは。
「殿が先に仰いました」
「十兵衛殿を気遣って」
「そのことはわかりました」
明智はこのことをすぐに察した、それで今言うのだ。
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