第百四十八話 伊勢長島攻めその七
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「摂津か越前か」
「どちらかですか」
「どちらかに向かいますか」
「そうする」
こう言うのだった。
「それでよいな」
「では今は」
「まずは使者を送る」
無論降伏を促す使者である。
「その者を送って明日の朝まで待つがな」
「それでもですな」
「返事がなければ」
「火を点けよ」
火攻め、それにせよというのだ。
「わかったな」
「はい、わかりました」
「では」
「まずは。そうじゃな」
ここで羽柴を見た、そのうえで彼に告げた。
「猿、御主が行け」
「はい、わかりました」
羽柴もすぐに頷いて応える。
「それでは」
「伴には好きなものを選べ」
「では小竹」
「はい」
秀長だった、彼も兄に笑顔で応える。
「では共に」
「行こうぞ」
「ではそれがしも」
「それがしも」
石田と島もだった、二人も名乗りを挙げてだった。
そのうえで四人で長島城に入る、そうしてだった。
城の門の前まで来ると、いきなり剣呑な声でその門の方から言って来たのだった。
「何者じゃ」
「織田家の者じゃ」
「織田家の者が何の用じゃ」
「話があって着た」
「話すことなぞ何もないわ」
つっけんどんな調子でだ、門から言う男は羽柴に言い返した。羽柴は馬の上からその声に対して応えているのだ。
その声にだ、羽柴はさらに言う。
「まあそう言わんでくれ、どうじゃ降らぬか」
「織田家に降れというのか」
「そうじゃ、降ってな」
そうしてだとだ、羽柴は言う。
「それぞれの村で平和に暮らすのじゃ」
「帰る村なぞないわ」
今度はこうした返事だった。
「我等にはな」
「さて、面妖なことを言う」
秀長は今の言葉にこう言うだけだった、だがだった。
そこにある言葉の意味は今は気付かなかった、ただの強がりだと思ったのである。そのうえで今の言葉は聞き流して言うのだった。
「そんなことを言わずに降れというのか」
「断る」
返事は一言だった。
「その様な言葉信じられるか」
「いや、織田家は無駄な血は好まぬ」
今度は羽柴が言う。
「御主達も降ればじゃ」
「助けるというのじゃな」
「そうじゃ、絶対にじゃ」
羽柴はこのことも保障した。
「だからじゃ、朝までじゃぞ」
「朝までか」
「そうじゃ、朝までじゃ」
刻限は強く言う、この辺りは。
「朝までに降れば村に帰って楽しい暮らしが待っておるのじゃぞ」
「だから降れというおか」
「無理はするな、村には美味い飯も待っておる」
人たらしの才も見せる、ものも示してそれで話を進めていくのも彼のその才の出るところなのである。
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