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蒼き夢の果てに
第5章 契約
第80話 勝利の後に
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か、マジャール侯爵夫人のファーストネームを呼ぶブリギッド。
 但し、マジャールの地に於ける彼女の呼び方の方で。
 もっとも、湖の乙女は相手の名前を呼んだ事は有りませんし、ティターニアに関しては敬称を付けるので、これは精霊としての特性と言うよりは個人の資質と言うべきですか。

「ルイス。貴方も貴方です。確かに、あの炎の邪神は消え去りましたが、未だこの場所には邪神が顕現しようとした事により発生した歪みや澱みが蓄えられた状況。こんな危険な場所で呑気に女の子たちとの会話に興じるなど」

 不満を口にしようとするブリギッドの言葉を視線だけで優しく受け止め、しかし、俺に対しては少し厳しい内容の言葉を伝えて来る。
 ただ、これは正論。確かに――――

「少し気が緩んで居たのは事実のようです、母上」

 俺はそう素直に謝ってから、タバサに視線を向けようとする。そう、これからこの地の浄化を行い、歪みの調整をするのなら、一人でやるよりは、タバサと湖の乙女の能力を借りた方が楽ですから。
 しかし、俺の答えを聞いて、マジャール侯爵夫人が少しその形の良い眉根を寄せて見せた。

 そうして、

「女の子に囲まれた状況だから、多少、着飾った言葉を使うのは構わないけど、この場では普段通りの言葉で構わないのですよ、ルイス」

 ……と、かなり短い目のボブカットの蒼い髪の毛を揺らしながら、タバサに良く似た顔に、未だに彼女が見せた事のない表情を浮かべて言って来る。
 そう、まるで本当の母親のように。

 一瞬、四年以上前の俺が姿を現しかけ、無理矢理、心の柔らかい部分に覆いを掛ける俺。
 同時に、瞳を閉じひとつ大きく息を吸い込む。大丈夫。意識を別の方向に持って行けば俺は未だやれる。

 まして、余りにも他人行儀な口調で話して居たのでは、其処に違和感が発生する可能性も高いですか。特に、先ほどの俺の言葉は明らかによそ行きの言葉。タバサや湖の乙女はもちろんの事、アリア相手にさえも使用しない目上の他人に対する言葉使い。
 生まれてから、この年齢に成るまで実の母親として育ててくれた相手に対する口調では有りませんでした。
 ただ、普段通りの口調で、と言われても……。

「判った。確かに、母ちゃんの言う通りやな。さっきの俺の言葉は妙やった」

 こう言う言葉使いに成るのですが。俺の場合は。
 そして、その瞬間に、再び、むき出しに成り掛かる柔らかな部分を無理に隠した事は……。タバサと湖の乙女以外には気付かれなかったと思います。

 その俺の言葉を聞いて、今度は軽く首肯いた後に笑ってくれるマジャール侯爵夫人。しかし、その姿は何処からどう見ても二十代後半ぐらいにしか見えない女性なのですが。
 それも、俺が彼女の事をアリアの母親だ、……と言う事を知って
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