第5章 契約
第80話 勝利の後に
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居るから、本来の見た目よりも少し上の年齢に感じて居るだけで、何の情報もなしに彼女が目の前に現われたのならば、どう感じるかは判った物では有りません。
其処まで考えてから、未来の彼女の姿から、現在の彼女へと視線を移す。
そう。マジャール侯爵夫人アデライードが覚醒した吸血姫として齢を重ねた存在なら、タバサはこれから先に、彼女と同じように普通の人間と比べるとゆっくりとした時間の中で歳を重ねて行く事になる存在。
俺と視線が交わった瞬間、普段通り、動いたのか、それとも動いていないのか判らないほどの微かな動きで首を上下させ、首肯いてくれるタバサ。ただ、これはおそらくこの地の浄化や歪みを補正する作業の手伝いをする事に同意してくれたと言う事で有って、マジャール侯爵夫人の事を将来のタバサの姿だと考えて居た事に対する同意と言う訳ではないのでしょうが。
「そうしたら、さっさと御仕事を終わらせてから、朝食にするとしますか」
☆★☆★☆
山間部に吹く冷たい……いや、最早痛いと表現すべき風が身体を強く打つ。
そう。今までのこの地方には考えられない程の、猛烈に寒い真冬の到来を予感させる冷た過ぎる北風。
白い新雪に覆われた大地と、そして大気は完全に熱を失い、蒼穹には地球世界のこの世界の初冬に相応しい分厚い雲が垂れ込める。
十一月、第四週、オセルの曜日。
あの世界を煉獄の炎で包み込もうとしたスヴェルの夜から二週間。
冷たい風に乗って、ふたつの笛から発せられる異なった旋律が、しかし、見事な重なりを描き出しながらゆっくりとこの高緯度地域の初冬に相応しい気温の世界に広がって行く。
俺が高く奏でると、それに応えるかのように、タバサは低く伸ばす。
俺が低く区切ると、彼女が高く響かせる。
そして、その笛に重なるふたつの歌声。
ひとつは湖の乙女。
そして今ひとつは、妖精女王ティターニア。
ふたりの歌声が新たに植樹された針葉樹の若木の森に響き渡り、そこに存在する精霊たちを活性化して行く。
その歌が響き渡った瞬間、自然の中では本来有り得ない状況を展開し始めた。
本来、苗木と言って差し支えない大きさで有った若木たちの間を、冷たい風に乗って広がって行く歌声が、そして笛の音が響いた瞬間。
徐々に枝を伸ばし、幹を太らせて行く若木たち。
太い根を張り、針葉樹独特の葉を茂らせて行く様は、緑色の雲が涌き立つが如き、壮観な眺め。
おそらく、遠方からこの様子を見て居た人間は、今のこの場に緑色の身体を持つ巨人が立ち上がったと思う事でしょう。
そう、今、俺たちが育てているのは針葉樹。あのスヴェルの夜の前日までのこの場
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