焦がれる夏
弐拾漆 きっかけの一打
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びていった。
ドンッ
呆然と見送ったセンター東雲の視線の先で、弾丸ライナーがバックスクリーンに弾んだ。
ーーーーーーーーーーーーーーー
一瞬の静寂の後。
球場に大歓声が満ちる。
応援席が、グランドが興奮の坩堝と化す。
初出場のダークホース、ネルフ学園が。
初回から4番・剣崎の満塁本塁打で4点を先制した。剣崎は今大会3本目の本塁打。
最も出て欲しい時にこの一発が出た。
「ぉおおおおおおおお!!」
剣崎は右手を高々と突き上げながらダイヤモンドを回る。寡黙な男が会心の一発に吠えた。
「剣崎ィーー!!」
「剣崎くーーん!」
「オオカミせんぱーーーい!!」
真理を含む応援団が右も左もなく抱き合って喜ぶ。伝統も実績も真反対の是礼学館相手の、あまりにも劇的な先制点だ。驚きと喜びと感動がごっちゃになって混ざり合う。
「剣崎ーー!」
「恭弥ァー!」
「先輩信じてましたァー!」
「最高だァー!」
ホームインした剣崎を、ランナーに出ていた3人とベンチの皆が出迎える。上級生も下級生もなく、剣崎に群がって手荒く祝福した。
涙目になる光の隣では、加持が興奮に震えていた。
「碇!」
剣崎は自分から真司を呼び寄せた。
真司は、打席に入る前と同じような笑顔を見せる。
「やったぞ!」
「はい!」
2人はハイタッチを交わした。
ーーーーーーーーーーーーーー
マウンドでは、高雄が両膝に手をついて俯いていた。その顔は真っ青で、質の悪そうな汗が一面に浮かんでいる。
完全なダークホースのはずのネルフ相手に、ワンアウトもとれないまま、至極無様に4失点。
いきなりのこの4点が今後に大きくのしかかってくるだろう事は、考えなくてもわかる。
取り返しのつかないほどの失点に、凍りつくしかない。
ドガッ
俯いている高雄の尻を強く蹴り上げる者が居た。
ノロノロと高雄が振り返ると、琢磨がものすごい剣幕で迫ってきていた。
「何いつまでも下向いてやがるんだ、ボケェーーッ!!」
高雄の顔の目の前で琢磨が怒鳴った。
「ビビったようなピッチングでウジウジ投げやがって、ふざけてんのかテメェは!!一体今まで何を練習してきた!?テメェみたいなヘタクソはなぁ、何も考えずに強く腕振りゃ良いんだよ!それ以外取り柄ねぇだろうがこンのアホんだらが!!」
言いたいだけ言って、琢磨は踵を返してショートのポジションに帰っていく。
高雄はポカンとしてその後ろ姿を見ていたが、ふと何かに気づいたような顔になり、拳を固く握りしめた。
パァン!
自分のグラブを強く叩いて音を鳴らし、打者に向き直った。その顔には、先ほどまでとは違う雰囲気が漂っていた。
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