焦がれる夏
弐拾漆 きっかけの一打
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だ絶好のチャンス。
打者はネルフにとってこれ以上ない打者、4番の剣崎へと回る。
(昨日は相田が決勝打。俺はまだ勝利に導く一本を打てていない。5割打とうが、俺はただ勝ち馬に乗っかってきただけだ。)
打席に入る前に屈伸、背伸びを繰り返して剣崎は気合いを入れる。
(皆、スマンな。お前らと野球しても意味がないなんて思ってた。大した事ないと思ってた。それは違う。お前らは立派だ。本当に上手くなった。ただきっかけが足りなかっただけだ。そのきっかけを作ったのは…)
剣崎はベンチに視線を向け、その中の中性的な優しげな顔つきの少年を見る。
少年は剣崎の視線に気づき、しっかりとその目を見返してきた。
(碇真司。お前だよ。皆の期待を引き受けて、皆の"本気"を引き出したのはお前の存在だ。日向だって、お前が居なきゃあれほど本気になれたか。俺だって…)
真司は剣崎に微笑みかけた。
剣崎は頼もしく無言で頷いて、打席に入る。
(地元の公立を甲子園に連れていくのが夢だった。その夢が親の転勤で叶わなくなった時から、色々理由をつけて野球から逃げていた。俺の中学最後の夏を終わらせたお前が、また野球を始めたのを見なけりゃ、高校3年間ずっと逃げっぱなしで終わってた。俺も、どんなしょうもないものでも良いから、きっかけが欲しかったんだ。お前が、俺のきっかけになったんだ。)
右手でバットをくるくると回し、肩に担いでぐっと背中を反らすルーティーン。
腰をドッシリと据えた安定感と、少し揺らいでタイミングを測る柔らかさ。
剣崎の構えには隙がない。
剣崎もまた、一年足らずとはいえ、成長してきた。
(この試合が終わるまで礼は言えない。俺は口下手だから、気の利いた事も言えそうにない。)
剣崎はマウンド上の高雄を睨む。
(俺は今、4番打者だ。4番は結果でモノを語るだけだ。)
高雄は思いもよらないピンチに動揺を隠し切れないらしく、初球、二球目とボールが続く。
剣崎の気迫の前に、中々安易にストライクをとりにいけない。
(…くそ、押し出しなんて事になったら本末転倒だ。ここはストライクとっておかねぇと…)
汗を拭いながら、高雄は焦りを覚えていた。
慎重に投げなければならないプレッシャーと、四死球でテンポを悪くしたくないプレッシャー。
高雄の中で少し、後者が勝った。
相手ではなく、自分と戦ってしまった。
3球目はスライダー。
コンパクトな腕の振りから、少し甘めのコースへ放たれる。
剣崎には、その軌道がよく見えた。
バックスクリーンの緑色に、白球がくっきりと浮かび上がって見えた。
カァーーーーーン!!
手元まで引きつけて、速いスイングでボールを打ち抜く。センターの頭上へ、剣崎の打球はグーンと伸
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