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誰が為に球は飛ぶ
焦がれる夏
弐拾漆 きっかけの一打
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は三塁側のファールゾーンを転々とした。
慌てて健介は一塁へ走る。
尻もちをついた最上がボールを拾った頃には、既に一塁を駆け抜けていた。
ネルフの応援席とベンチが大きく湧き上がる。

「いいバントー!」
「いいぞ相田ー!」
「健介ナイスー!」

その声を健介は一塁ベース上で苦笑いで聞いていた。明らかにバント失敗の打球だったが、結果オーライで、むしろチャンスが広がった。

「高雄、悪りぃ」
「いつもはやらねぇダッシュなんてするからだろ」

謝る最上に、高雄は微妙な笑顔を見せた。
不運だということを分かってはいるが、やはり捕って欲しかったようだ。



ネルフにとっては、いきなり迎えた無死一、二塁のチャンス。
応援団は例によって、「5,6,7,8」を演奏し始める。ネルフのチャンスに常に寄り添って、後押ししてきたこの曲に送られて、3番主将の日向が打席に入る。

(高雄の球は高めに浮いてるな。さっきのプレーも何かチグハグだったし、是礼は雰囲気が良くないぞ?)

日向は健介に続いてバントのサインを自らに出す。バットを横に倒して構える。

(ここも堅実に行くべきだよな。次が剣崎なんだし。)

ラッキーが出た流れに任せず、キッチリと送っていく事を日向は選択した。
しかし、その初球は思いも寄らない結果をもたらす。

「うわっ」
「デッドボール!」

またもやスッポ抜けたような真っ直ぐが日向の体に飛んできた。身を翻して避けた日向のユニフォームの袖をボールが掠め、審判がデッドボールを宣告する。高雄は、当たってないだろ、とばかりに目を見開いて不満げな顔を見せた。


たった3球。これまで埼玉の高校野球をリードしてきた大横綱相手に、驚くほどにあっさりと無死満塁のチャンスができた。
どこかまだ、決勝戦の雰囲気は落ち着いていない。
打席にはネルフの絶対的主砲・剣崎恭弥を迎えた。


ーーーーーーーーーーーーーー



「これはマズイな…」
「高雄さん、正直かなり浮ついてますね」
「こんなフワフワした雰囲気ではな…気がついた時にはもう遅い、という事も有り得る」

マウンドに伝令を送って間をとった冬月は、ベンチで渋い顔をしていた。
長い監督生活の中で、あれよあれよと試合の主導権を失ってしまった経験は数限りなくあるが、そんな時に監督にできる事は案外多くない。
どうにもできない流れというものも、中にはあった。


(監督を何年やっても、野球を完全に分かった訳ではない。毎度毎度、肝が冷える事ばかりだ。)

ベンチの最前列に出て腕組みし、仁王立ちする冬月。鋭い目つきで、ネルフ学園ベンチを睨んだ。


ーーーーーーーーーーーーーー


<4番センター剣崎君>

初回から掴ん
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