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誰が為に球は飛ぶ
焦がれる夏
弐拾漆 きっかけの一打
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ボールは高く浮いた。

「…やっぱ悪いかもしれんわ」
「おい」

琢磨は高雄の頭をはたく。
高雄は「何しやがんだ」とやり返した。

(高雄の奴、こんなゴリラみたいな顔の癖に、案外気が小さいんだよなぁ)

琢磨はベンチの方を振り返る。
冬月がタオルで汗を拭いているのが見えた。

(昨日の温存で投球間隔が空いたのが、精神的にマイナスにならなきゃいいんだが)

ブルペン捕手のミットがまた、ズドンと音を立てる。

(ま、こいつ以上のピッチャーもウチには居ないんだけどな)

冬月から集合がかかり、琢磨はベンチの方へ駆けていった。

ーーーーーーーーーーーーーー



「いいか、よく聞くんだ。昨日聞いたんだけど、緊張しないには深呼吸じゃなくて、息を吐き出す。これが良いらしい。」
「ほうほう」
「皆でやってみるぞ。手を繋いで……」

試合前の円陣で、唐突に日向が提案した。
円陣でネルフナイン全員が手を繋ぎ、ハァハァと息を吐き出す。

「……」
「犬みたいやんけ」

しばらくやって、藤次がツッコみ、円陣に笑いが満ちる。

「ほんっとしょうもない指示ばっかだよな」
「昨日から、キレてるな」

多摩と剣崎は呆れ顔である。

「でも、気持ちほぐれたろ?」

日向はニヤっと笑う。

「今日も勝つ!」
「「おおおおおおおおお」」

日向の一言を合図に円陣がグッと狭まり、試合前のグランドにネルフナインの絶叫が響き渡った。



ーーーーーーーーーーーーーー



両チームが、球審のかけ声でホームベース付近に駆けていく。ホームベースを挟んで並び、睨み合う。

一塁側、純白にエンジのイチジクのエンブレム、ネルフ学園。
三塁側、灰色に青の刺繍で校名、是礼学館。

「礼!」
「「お願いします!」」

一礼の後、ネルフ学園は攻撃の準備にベンチへ戻り、是礼学館はグランドにナインが散っていく。
高校球児にとって、最も勝ちたい試合。
甲子園出場校を決める決勝戦が、今始まった。


ーーーーーーーーーーーーーー


「みなさーーん!今日は応援来てくれてありがとー!」

一回の表の攻撃前に、スクールカラーのエンジに染まった応援席の最前列で、真理が呼びかける。
大会を通じてずっと共に戦ってきたエンジのシャツを着た応援団に、それに参加しなかった生徒でさえも、今日は制服姿で球場に駆けつけていた。
ブラスバンドは、ネルフ学園吹奏楽部だけでなく第三新東京市の市吹奏楽団も駆けつけ、初戦の倍ほどの人数になっている。

「全員注目!!」
「「なんだーー!?」」
「我がネルフ学園はぁー、埼玉大会の中で一番新しい学校だー!」
「「そうだー!!」」
「初めての夏
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