Episode20:十字の道化師
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黒い光が灯った。
刹那、肌を突き刺す極寒の世界の中で、男を強烈な熱気が襲った。
「ムスペルスヘイム」
瞳を見開いた隼人の口からその言葉が呟かれた刹那、氷と雷炎、二つの相反する力がぶつかり合った。
気体分子の振動を減速し、水蒸気や二酸化炭素を凍結させるのに留まらず、窒素までも液化させる領域魔法・ニブルヘイム。
気体分子をプラズマに分解し、更に陽イオンと電子を強制的に分離することで高エネルギーの電磁場を作り出す領域魔法・ムスペルスヘイム。
プラズマと冷気が、周囲を覆い尽くし互いを呑み込もうと荒れ狂う。恐らく、両者の能力が拮抗しており更に場所が屋外だったならば夜空には、少なくともこの街では見ることのできないオーロラが見れていたことだろう。
だが今回は、そのどちらの条件も満たしていなかった。
冷気が急激に収束を始め、プラズマが激しさを増した。
隼人と男。二人の干渉力は、圧倒的に隼人の方が勝っていた。だがそれは当たり前のことだ。サイオンを直接改変できるのだから、干渉力で隼人と同列に立つことのできる者はいても、勝てる者はいない。その人が、現代の魔法プロセスを使用している限りは。
ほとんど冷気など消え去ったところで、男は諦めたように瞳を閉じた。そして、轟音と同時に最大出力のプラズマが男を焼いた。
「…沙織さんの言うとおりだったか……この組織、一筋縄ではいかなそうだ」
地面に落ちている短剣を拾い上げて、隼人は未だ燃え盛る廊下を眺めた。
現在地は二階の階段付近。雫とほのかが捕らわれているであろう最奥の部屋はここから突き当たりにいった場所だ。人質の二人の救助を最優先としている今、ここからすぐにでもあの部屋へ向かったほうがいいのだろうが、まだ達也と深雪が来ていない。
「あの二人のことだろうから、なにも無いとは思うけど…」
深雪は天才だ。十師族の直系と同等、いやそれ以上の力を持っている。そして達也も、魔法の実技教科に手こずるものの、実戦の腕は恐らく本物だ。今まで隼人が相手取ってきた十字の道化師の組員にあの二人が倒せるとは思えない。
だが、戦いに番狂わせの可能性とは常にあるものだ。確実に二人が負けないなんて確信はない。
「ーーあ、もしもし達也?」
そこで隼人が選んだのは達也への通信だった。自分の端末から達也の番号を探し出して電話をかける。
隼人の懸念に対して、応答は早かった。
「三階の殲滅は終わったけど、そっちの調子はどう?」
『ああ、こっちももう終わる。すぐそっちに向かうから待っていてくれ』
「了解。戦闘中に電話してごめんね」
そう。達也の冷静な声の後ろではまだ銃声が聞こえていた。だがまあ、焦っている様子はまるでなかったのだから電話しても問題ないのだ
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