第三章
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で考えてはいなかったわ」
「今度はそうなんだな」
「今度はね。それじゃあ」
彼女もベッドを出てそれから部屋を出た。街はまだネオンが輝いているけれどそれももうすぐ終わりだ。そんな街の中を二人で歩いていた。
「この街さ」
「どうしたの?」
今度は俺が言った。彼女が応えてきた。
「嫌いだけれど好きなんだよ」
「矛盾した言葉ね。けれどどうしてなの?」
「切なくなるんだよ」
不意にだ。ここにいると急にそう感じる時がある。
「何となくさ。けれど」
「楽しくもなるのね」
「ああ、そういうことさ」
「それじゃあ今はどうかしら」
今度はこう尋ねられた。
「今は。どっちなの?」
「どっちもだな」
何かさっきの天使と悪魔がここでも出て来たように思えた。
「正直なところ」
「そうね。私もよ」
どういった風の吹き回しか。彼女もこんなことを言い出してきた。
「楽しいけれど切ないわよね」
「俺とは逆なんだね」
「逆になるわ。だって」
その切なさを顔に、そして目には哀しさを。何かうっすらと熱いものさえある。何か急に俺がただのエキストラになっちまったって感じだ。一夜限りのロミオとジュリエットの筈だったのに何時の間にか俺だけエキストラになっちまっていた。
「今は本当にね。終わりだから」
「せめて終わりは楽しくとかは?」
「なれないわ」
その哀しい瞳で言ってきた。
「とてもね」
「そうなんだ。けれど今は」
それでもその彼女に言う。
「もうすぐ終わりだよな」
「ええ、そうね」
芝居か本気かわからない。けれど何かもう俺は彼女に囚われていた。その目を見ていると遊びなのかそうじゃないのかわからなくなってきた。
そんなムードの中でネオンが最後の光を消していく中を歩いて。遂にそれが終わった。
朝になった。これで俺達の遊びは終わった。朝日が見えるのと一緒にネオンが一斉に消える。それと一緒に彼女が俺に告げてきた。
「それじゃあ」
「ああ」
その哀しげな瞳のままで別れを告げる彼女に応える。彼女は俺の横から離れてそのまま前に歩いて朝の街の中に消えていく。
俺は追わなかった。それが最低限のルールだからだ。
けれど振り向いてみた。誰もいない。今ここにいるのは俺だけだった。俺は一人になってふと呟いた。
「また誰かと遊ぶか」
いつもこれの繰り返し。週末の浮気はこんなもの。最後は切ない。けれどその切なさもまたいいものだ。そう感じるようになってしまっている俺は今夜は本命の彼女のところに行こうと思った。浮気はまた今度。そんな勝手気ままな都会の恋というわけだ。たったそれだけのこと。
ウィークエンドアバンチュール 完
2008・1・9
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