Development
第二十一話 不安と希望
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これから一年間通うことになる4組の教室の前まで来ると、僕は自然と一年のことを思い出す。あの時は正体を隠して通うことにビクビクして、教室に入るだけで勇気を絞り出したものだ。
もっとも、それに慣れてしまった現状は嘆かわしいのだけれどこればっかりは慣れないと僕の精神が持たなかったと思うので許してほしい。
去年と違い、今年は織斑君がいるしそれほど注目を浴びることもないだろうと考えて気楽に教室に立ち入るものの、すぐにそれは誤りだったと知る。
一歩足を踏み入れた途端に変わる空気。それは去年も経験した、しかし何かが違う。
「失礼します」
去年と同様の言葉、違うのは落ち着いて言えたことくらいか。
少しの間僕に注目が浴びたあとは皆それぞれ近くの生徒との会話に戻るものの、時折こちらに向けられる視線は絶えない。去年とは違った居心地の悪さを感じつつ、僕は自分の席へと座る。
簪さんもまだ来ていないようで、当然知り合いもいない。話しかけられる雰囲気でもなかったので、ひとまず持ち込んだ本を読んで時間を潰していたところ、再びクラス中の視線が入口へと向けられた。
「…………」
簪さんだ。その視線にやや顔を顰めながらも気にしない素振りでこちらに向かってくる。今朝も、気づいたらいなかったので先に出たと思ったのだけど、何故か時間ギリギリだ。
僕のときと同様にチラチラと視線を向けては何事か近くの生徒とコソコソ話している。時折、『生徒会長』や『妹』という単語が聞こえてきて、その会話の内容を察する。
もしかしたら簪さんはこうなることを予期してギリギリに入ってきたのかもしれない。
僕の時にも何かしらそういう会話があったんだろう。留年したことは事実だし、事件に巻き込まれたことなどから噂が広がっているのは楯無さんから聞いている。ただ、二年生以上の生徒は特に気にしていないことはヴァレンタインのときに分かっている。……あの時は大変だったけど今にして思うとありがたいことだったんだね。
でも新入生は、もともと留年した生徒というだけでも扱いにくいんだろう。こればっかりはこれから付き合っていく上でなんとかするしかない。彼女たちにどんな噂が流れているのかはわからないけど、これも実際に接しながらしがらみを解いていく必要がある。
ここまでとは思わなかったけど、同学年と壁が出来てしまうことはある程度は覚悟していた。だから僕に対して陰でコソコソ言われても別に我慢することはできる。
でも、簪さんに関しては違う。本人は意に介さずに席に向かうが、周りの態度を見かねた僕はさすがに諌めようと立ち上がる……寸前に近くにきていた簪さんに目で制される。
「……余計なことはしないでください」
ただ、一言そう告げるとそのまま僕の後ろの席
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