暁 〜小説投稿サイト〜
魔法少女リリカルなのはStrikerS 〜困った時の機械ネコ〜
第2章 『ネコは三月を』
第33話 『なにか変か』
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で違いがあるとすれば、彼の周りに展開している気圧の変化から、雨粒が凝固し、氷の粒となって付近に転がっているくらいだ。
 彼が目を離してから姿勢を変えずにいたという証拠はないが、シグナムは自分の考えを疑いはせず、驚きというよりも寧ろ、不可解かつ異様であることに息を呑んだ。
 既に知っているあまりにも静か過ぎる呼吸は、肩や胸の動きを見せず無呼吸に見え、深く被った帽子は普段から読むことを困難にさせる雰囲気を完全に消失させていた。
 一言で言うのであれば、


(気配がない)


 というものである。
 目視できているのに気配がないという感覚が彼を異様と思わせている原因であった。


「カギネ三士、そこで何をしている」


 故に、シグナムが思わず彼に向かって話しかけたのは、その雰囲気を一蹴したかったのかもしれない。だが、すぐに彼女は彼に横槍を入れたことを後悔した。何をしているにせよ、彼の訓練の邪魔をしたのは間違いないのだ。長時間一定の姿勢を維持しているということは、等しく真剣な証拠である。


「…………」


 しかし、相手は反応することはなかった。
 彼女が後悔した前後で姿勢、雰囲気に違いはない。変わらず正座をし、身に降りかかる氷の粒にも反応することはなく、無言を貫いている。
 雨脚は強くなり、彼女の傘に降り注ぐ雨粒の音が大きくなる中、すこし見下ろすかたちで彼を見ていた彼女は訓練内容より、今正面にいる彼の状態が知りたくなった。この訓練が何を鍛えるものかは分からないが、正面に立ち、声に出しても全く反応がないのであれば、表情も気にはなるところである。
 まして彼は敢えて無視をする、気付かないふりをする人間でもない。真面目で丁寧な人間であることは人間関係に疎いシグナムでさえ知っている。
 目を瞑り耳でも塞いでいるのだろうかと、彼女は正面よりやや右に移動し、膝を折って彼と同じ視点に立ち、覗き込んだ。


「――ッ!!」


 彼女の呼吸が止まった。身体が硬直し、少し声が漏れてしまったことに気付くまで、数秒を要し、そしてすぐに上体を起こし、呼吸を整えた。
 彼はいつもの寝ぼけ眼ではなかったのだ。『いつもの』ではなかった分、すぐに顔を上げたのにもかかわらず、容易にその表情を思い出すことができる。
 彼は正面を炯眼(けいがん)していたのだ。
 帽子のつばによって顔上半分を覆うように影ができ、その中で黒曜石のような黒い瞳が白目によって強調され、圧倒せんばかりに鈍く炯炯(けいけい)としていた。
 ただそれだけのことであるが、普段の彼からは決して想像することのできない表情であった。今まで――約2ヶ月弱――確認できた表情のうち、どれをとっても寝ぼけ眼が付随していたため、本来の本人と疑わしくなるほど真剣な目つ
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