第二章
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後
第二章
「ずっとね」
「そうしてくれるんだな」
「ええ、そうするわ」
そう言ってくれた。
「ずっとね」
「じゃあ」
「忘れないから」
俺の顔をじっと見ての言葉だった。
「何があっても」
「有り難う。じゃあな」
「行ってらっしゃい」
「またな」
俺はここで桟橋を渡って船の中に入った。そしてその中で夜明けに歩いたその街のことも思い出した。二人で歩いたあの街をだ。
あの時は俺達もずっと一緒にいられると思っていた。けれどそれはできなかった。俺も彼女もずっと一緒に。けれどそれはできなかった。
そんなことも考えながら俺は船の中に入った。その時俺の胸に微笑んで指で字を書いてくれたことも思い出した。
その字は『幸福」、それだった。そして俺を指差してくれた。夜明けの話だ。
船に入って港に顔を向けるとここで霧笛が鳴った。彼女も桟橋がそれまであったその場所に出て来て。俺を見上げてきた。
テープが切れて出港になった。俺があげた髪飾りを持って泣いている。
「またな」
俺はまた彼女に告げた。
「また会おうな」
「ええ、待ってるわ」
「絶対に帰って来るからな」
俺はこのことも誓った。
「ここにな」
「待ってるから」
泣きながら俺に行ってくれた。船は少しずつ、けれど確実に港から、この国から離れる。そして出港して。
彼女は追い掛けてきた。港を見下ろす丘にまで来てそうして手を振り続けてくれた。俺も手を振って返す。お互いの姿が見えなくなるまで。
そして俺は彼女の姿が見えなくなってから。また思い出していた。
はじめて会った時のことをだ。
あの時から奇麗だった。絶対にずっと一緒にいたいと思った。
けれどそれは叶わずに今は別れ別れになった。そうして。
今になって涙が出て来た。ぼろぼろと出て止まらない。その俺に隣にいたお年寄りが優しく声をかけてくれた。
「泣きたければ泣けばいいさ」
「泣いていいんですか」
「ああ、いいんだよ」
それでいいと言ってくれた。
そうして俺にそっとあるものを出してくれた。それは一枚のハンカチだった。
「使いなよ」
「ハンカチですか」
「泣いてそれで忘れて」
また言ってきてくれた。
「次に向かえばいいから」
「だからですか」
「そう、だからさ」
お年寄りの言葉はこのうえなく優しい。そして温かかった。
「今は泣いていいんだよ」
「わかりました・・・・・・」
俺はその言葉に甘えて今はただひたすら泣いた。男が泣くなと言うけれど今の俺はそれでも泣いた。泣かずにはいられなかった。そしてそのうえで。日本を離れた。彼女と別れ夢を掴む為に。
ONE NIGHT ANGEL 完
2010・3・1
[8]前話 [1]次 最後
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ