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ONE NIGHT ANGEL
第一章

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第一章

                 ONE NIGHT ANGEL
「もう行くのね」
「ああ」
 俺は彼女に言った。今俺達は船の桟橋のところにいる。
 俺はこの船に乗ってだ。そのうえで他の国に行く。
 本当はこいつと一緒に行きたかった。けれどそれはできなかった。
「なあ」
「何?」
「やっぱり駄目か」
 俺はこう尋ねた。
「一緒に行けないんだな」
「御免なさい」
 泣きそうな顔で俺に答えてきた。その顔を見ているだけで俺も悲しくなる。
「どうしても」
「そうか。仕方ないな」
「貴方もどうしてもなのね」
「ああ」
 俺もまたそうだと答えた。
「どうしても。あの国でな」
「夢を掴みたいのね」
「折角手に入れたチャンスなんだ」
 俺には夢がある。それはあの国にしかないものだ。俺が今いるこの国には残念だがない。それで行くしかない、俺も迷ったがそれしかなかった。
「だからな」
「そうよね。貴方はずっと前から言っていたから」
「行くな」
 俺はまた言葉を出した。
「それじゃあな」
「それじゃあなのね」
「ああ。そろそろ出港だ」
 周りでも多くの人達が別れの挨拶をしている。笑顔で別れている顔もあれば泣いている顔もある。俺達もその中にいる一組だった。
 そして何処からか歌声が聴こえてきた。それは他の国の、俺が今から行く国のメロディーだった。それを聴きながらまた言う俺だった。
「あの曲な」
「ええ、あの曲ね」
「俺はあの曲の国に今から行くからな」
「また帰って来るのね」
 彼女は俺の顔を見上げて尋ねてきた。
「またなのね」
「ああ、きっとな」
 ずっとその国にいるつもりはなかった。夢を適えればそれで戻って来るつもりだ。だがそれが何時になるのかは全くわからなかった。
 そしてだ。俺はふと思い出したことがあった。それを言葉にも出した。
「なあ」
「どうしたの?」
「その髪飾りだけれどな」
 今彼女が着けている朱色の髪飾りだ。それを見ながら言う。
「俺が買ったやつだよな」
「そうよ」
 まさにそうだと返ってきた。
「あの時貴方が買ったあの髪飾りよ」
「そうか」
 それを聞いた俺は静かに頷いた。
「あの時のだな」
「ずっと着けているから」
 その髪飾りを手に取って両手で持って来た。そのうえでまた言ってきた。

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