第13話:波乱の秋
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反応していた。俺は、その様子から目を話さず、罵声を浴びることを覚悟しながら彼女の言葉を待つ。
更なる罵倒は来なかった。そのかわり、先ほどの笑顔を振りまいていた彼女とは一変して、先ほどと同じ、虚ろな疲れきった無表情な顔を俺に向ける。俺はその変化に戸惑いながらも、さらに一つの仮説を立てた。あの家庭に囲まれているうちに、原作で見せたあの笑顔・快活な絢辻縁は実は妹同様の作られたもので、こちらの顔が誰にも見せていなかった本質の部分ではないか、と。
「操り人形…、私は絢辻の家の操り人形…。…そうね、あなたの言うとおり、私は人形。そしてあの人たちは、最低の親…まったくその通りよ」
さっきの陽気な子どものような姿とは正反対の、無表情で大人びて自嘲気味の声。
「部活でテニスをやっていた時は本当に楽しかった。部の中で自分の居場所を見つけた、そう思った。頑張って大会で良い結果を出した。けど、絢辻の家はあたしのテニスを認めてくれなかった。あの人たちにはそんなもの社会で何の役に立つ、と一蹴されたわ。辞めたくない、と主張したけど親が勝手に退部させてた…、学校にもあの人たちに干渉されるなんてね。あたしの居場所だったのに!ずっと求めていた世界だったのに!!」
口調は次第に口惜しさや忌々しさが込められて行く。表情は鬼の仮面を着けたみたいだった。そして、その内容は原作で絢辻詞が橘に聞かせたものよりもずっと心を鬱屈させるもので、耳を覆いたくなる。
(しかし、俺の不用意な発言でこういう流れになってしまったんだ。最後まで聞かねばなるまい)
俺は彼女から視線をそらさず、紡がれる言葉を待つ。彼女は、一息ついて興奮した様子を
「中学でも高校でも、あたしは学年一位を保って勉強をしてきた。あたしが犠牲になれば、あんな家でも家族でいられる、いつかみんな幸せになると思った。確かにあの人は、あたしを認めてくれた。『さすが絢辻の娘だ』、とね」
「……」
何も言えない。前世であっても、今世であっても幸せな家族に囲まれた俺が口を挟む資格がない気がしたのだ。俺は話を聞き続けることしか出来ない。
「…でも、詞ちゃん、私の妹は今まで以上にあの人たちから叱責されるようになった。「縁は凄いのにお前ときたら」「詞、お姉ちゃんはこうなのに」と、私と比較対象にした言葉を使って。詞ちゃんは前よりも無口になって、あたしを避けるようになった。憎んでいるのね、『絢辻家の娘』を演じるあたしを」
「…」
「あたしは、自分のせいで詞ちゃんが虐められるなんて、そう思うと耐えられない。きっと、あたしが先にどこかで壊れてしまう。そうしたら、きっとあたしは『絢辻の娘』としての役割を担えず、詞ちゃんにあたしの役割を押し付けることになる。それだけが
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