焦がれる夏
弐拾陸 精一杯の夢
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真司は、そのまま寝てしまっていた。
職員に促され、眠い眼を擦って起き上がりカプセルから這い出ると、美里が待っていた。
「よく休めた?」
「ふぁい、ふごく眠いれす」
「答えになってないわよ。」
真司がフロアのテレビを見ると、是礼と川越成章の準決勝がちょうど終わったようだった。
11-8。終盤までもつれたようだが、結局是礼が逃げ切ったようである。
「是礼が明日の相手かぁ…」
「強いわね。伝統のある、埼玉の王者よ。」
「でも何か…」
真司は、寝ぼけて赤い目を細めて笑った。
「勝てそうな気がするんですよ。」
「そうね、あたしもそう思うわ」
何の根拠もない。
でも何の根拠も要らない気がした。
ーーーーーーーーーーーーーー
「明日の相手は是礼!」
試合を最後まで見届けたネルフナインが、日向の一言で一斉に立ち上がった。
「とにかく明日の試合を勝つことだけ考えよう!勝てば甲子園とか、そんな事は…」
「それ、多分一番意識するの日向な気がする」
「あ、確かに」
威勢良く訓示を始めた日向に、多摩が水を刺し、皆がウンウンと頷いた。
「次の事なんて考えなくても良いから、みんな、明日の試合が最後だと思ってやりましょう!」
「そうだな!」
「せやせや!」
光の言葉に、健介と藤次が意気上がる。
「え…えと…まぁ頑張るぞ!」
立場を食われた日向が、言葉に詰まりながらその場を締める。
「「オオーーッ!!」」
ネルフナイン全員が、この少し頼りないキャプテンの言葉に強く頷いた。
このキャプテンについてきた。
そしてここまで来た。
皆知っていた。
恐れられないが、慕われるこの男だからこそ、自分達はここまでやってこられた事を。
ーーーーーーーーーーーーーー
「あ、綾波」
学校に帰ってきた真司を、校門で玲が待っていた。美里の車から降りて、真司は駆け寄った。
玲の真っ白な顔は、連日の応援で、日焼けして赤くなっていた。試合中トランペットを吹き続けた薄い唇も心なしか爛れている。
「碇君…」
玲に会う度、真司は、自分達の野球が自分達の身体だけを削っているのではない事を実感する。自分のやっている野球というものが、どれだけの人を巻き込むものなのか、少し恐くなる瞬間でもあった。そして、そんな真司の胸中を知ってか知らずか、玲は微笑む。
「体は、大丈夫なの?」
「うん、僕は大丈夫だよ」
「そう……」
待っていた割には、玲の言葉の数は少ない。
真司も、その少ない言葉で十分だった。
これが2人の関係だったから。
「頑張って、ね」
「うん。精一杯やるよ。」
シンプルなその言葉。
その一言こそ、真司を何より奮い立た
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