焦がれる夏
弐拾陸 精一杯の夢
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ンタビュー後で気の抜けた顔をしていた加持は、その姿を見ると急激に姿勢を正し、一礼した。冬月と呼ばれた老人は加持の前で立ち止まる。
「久しぶりだな、加持君。かれこれ、12年前の夏以来だ」
この老人は、埼玉県内で最も伝統と実績を積み上げてきた是礼学館野球部の監督を20年務める。
冬月浩三である。
「実に面白いチームを作ってきたな。皆楽しそうに、伸び伸びと野球をしている。君がしたかった野球だろう?」
「はい、おかげさまで。生徒に恵まれました」
加持は冬月に笑みを見せるが、その目は笑っていない。
「……我が是礼のOBで、ああいう野球を志す監督は君くらいのものだ」
「……皮肉ですか?」
「賞賛だよ」
冬月はその場を離れていく。
加持はその後ろ姿を目で追う事もなく、凝った肩を自分で揉んでいた。
ーーーーーーーーーーーーーー
「いよいよ決勝かぁ……」
ネルフ学園ナインは試合後、翌日の決勝戦の相手を見ておく為に真司以外は球場のスタンドに残って準決勝の第二試合を観戦する事にした。
真司は翌日の登板に備えて酸素カプセルによる治療回復に向かった。この夏の大会、特に投手はコンディションの維持が大変である。
「薫、受けててどうだ?真司は大丈夫か?」
スコアブックを振り返りながら尋ねる日向に、薫は肩をすくめて見せた。
「明日の調子は明日の真司君に聞かない事には分かりません。でも、余力はあると、僕は思ってます。」
「終盤3イニングはジャスト9人で斬ったしな。バテてはない、か。」
どちらにしろ、日向は決勝の先発も真司以外に考えてはいなかった。藤次も大会の中盤を支えたが、真司には及ばない。真司がマウンドを降りる時は、自分達が負ける時だと腹をくくっていた。
グランドでは、是礼学館のシートノックが行われていた。長身の冬月監督が次々と打球を繰り出し、非常にキビキビとした所作で選手達がゴロを捌く。動き一つ一つにメリハリがある。
そしてそのユニフォーム姿。ユニフォームのパンツはショートフィットのタイプで、一見スラッと細身の選手でさえも腿の裏、ふくらはぎ、尻が内側からパンツを突き上げている。胸板を初めとした体幹もしっかりしていて、鍛え上げられた逞しさに満ちている。
「ヤシイチも上手かったけど、このノックを見ると、やっぱ埼玉の王者は是礼だって思うよなぁ」
「でも優勝候補の筆頭は初戦に当たったヤシイチだよねぇ、アライグマ先輩」
「アライグマはよせって」
健介に真理が、応援をリードした後のガラガラ声で尋ねた。エンジの応援シャツは汗が乾いて少し塩を吹いたようになっている。
「まぁ、絶対的エースと、主砲が居た分だけヤシイチの方が注目はされてたさ。是礼は秋は準々決勝、春は
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